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ドルトムント、新たな“ボス”の肖像。息づくトータルフットボールの哲学と高度な守備戦術

7/14(金) 15:00配信

フットボールチャンネル

 トーマス・トゥヘル監督が退任したボルシア・ドルトムントに、オランダからペーター・ボス新監督が招かれた。昨季アヤックスをEL決勝に導いた指揮官は、どんな戦術を好み、いかにチームを作り上げていくのか。そして香川真司に居場所はあるのだろうか。日本でのプレー経験を持つオランダ人監督の辿ってきた道に答えが隠れているかもしれない。(取材・文:中田徹)

●名門アヤックス復権。ボスがEL決勝へと導く

 アヤックスを取り囲む風向きが、1月19日の対ズウォレ戦(3-1で勝利)でジュスティン・クライファートがデビューしてサポーターを虜にした頃から好転した。

 ビルドアップに手数をかけず、一気に相手のペナルティエリア内にボールを運んでシュートでゴールを脅かし、ボールを失ったらすぐに4人が相手を包囲して回収、すかさずショートカウンターを仕掛けて、ハーフコートフットボールを試みるーー。

 ペーター・ボス監督が志向していたサッカーがピッチの上で形となり、アヤックスは首位フェイエノールトの猛追を開始した。

 ヨーロッパリーグ(EL)の舞台ではアヤックスサポーターのみならず、オランダ中が「トータルフットボール」の再来に夢を見た。その機運が高まり始めたのは3月16日、ベスト16の対コペンハーゲン戦2ndレグ(2-0で勝利)から。

 クライファートと同じく、まだ17歳のマタイス・デ・リフトがCBとして相手の巨漢2トップを完封した上、アヤックスのDFらしく巧みなドリブルインから中盤で数的優位を作るなど、ハツラツとしたプレーで“将来のスター誕生”を予感させた。

 以降、アヤックスは準々決勝の対シャルケ戦(1stレグ、2-0で勝利)、準決勝の対リヨン戦(1stレグ、3-1で勝利)と、文字通りヨハン・クライフ・アレーナがサポーターの熱狂で大揺れするスペクタクルな試合を披露し続け、ヨーロッパの舞台における名門の復権を印象づけたのだ。

●急転直下のドルトムント行き。オランダ国内に走った衝撃

 一方で、ここぞという大一番の経験に欠けたのが、ボス監督率いるアヤックスの限界だったのかもしれない。ボス監督がこれまで獲得したタイトルは2002年にAGOVVをオランダアマチュア王者に導いたことと、2005年にヘラクレスをオランダ2部リーグで優勝させて1部に昇格させたことくらいだ。

 勝ち点81を稼ぎながらフェイエノールト(勝ち点83)に逃げ切られたのは不運だったとも言えるが、シャルケとの延長戦(4月20日のEL準々決勝2ndレグ)の激闘3日後のPSV戦でローテーションをせず0-1で敗れてしまったのは優勝争いのキーポイントとなった。ELの決勝でも、ジョゼ・モウリーニョの徹底したアヤックス対策に、ボス監督は手を打てずじまいだった。

 とはいえ、ここのところ元気のなかったオランダサッカー界に、ボス監督率いるアヤックスは自信と誇りと明るい未来を取り戻してくれた。マンチェスター・ユナイテッド戦直後も「私は来季もアヤックスで指揮を執りたい」と語ったボス監督の言葉に、アヤックスはさらなる高みに向かうだろうと信じたファンは多かったはずだ。

 それだけに、その舌の根が乾かぬ6月6日にボルシア・ドルトムント監督就任が発表されたのは、オランダ国内でも大きな衝撃として受け止められた。

 トーマス・トゥヘルと袂を分かったボルシア・ドルトムントはルシアン・ファブレの招聘に乗り出したが、ニースに断られてしまった。そこでターゲットをペーター・ボスに切り替え、500万ユーロ(約6億5000万円)の違約金でアヤックスと合意に達した。

 第1期ヘラクレス時代(2004-06年)からずっとアシスタントを務めているヘンドリー・クルゼン、フィテッセとマッカビ・テルアビブで支えてくれたアルベルト・カペジャスという2人のコーチを引き連れ、ボスはボルシア・ドルトムントを指揮する。

●ボスの攻撃サッカー哲学とは。「5秒ルール」のルーツ

 現役時代の印象から『フェイエノールダー』とみなされているペーター・ボスだが、1970年代と90年代のアヤックスのサッカーに深く影響を受けている。RKCワールワイク時代のボスは、すでに24歳だったにも関わらず自室にアイドルのヨハン・クライフのポスターを貼っていたという。

 また、フェイエノールトで活躍した頃、ボスは練習を終えると車に乗って、かつてのアヤックスのホームグラウンドのあったデ・メールまで行ってルイ・ファン・ハール監督の練習を見学していた。さらに、指導者になってからはペップ・グアルディオラの影響も受けて、第2期ヘラクレス時代(2010-13年)から攻撃サッカーのフィロソフィーを実践するようになった。

 当時のヘラクレスはオランダリーグ内でも17から18番目の予算しかないチームだったが、それでも時には3-4-3というフォーメーションを採用し、ポゼッションサッカーで相手を圧倒しようと試みて2010/11シーズンには8位という好成績を残した。「ヘラクレスのサッカーは見ていて面白い」という高評価を得た一方、サポーターの一部からは「あまりに無茶だ」という非難もあった。

 2013年には観客動員の低迷に悩まされていたフィテッセから「攻撃的なサッカーでファンを増やして欲しい」というリクエストを受けて監督に就任。ボス監督はそのスペクタクルなサッカーから「将来はオランダ代表の監督に」という新聞辞令も受けた。

 この時期にボス監督は、かつてバルセロナのカンテラで指導者をしていたカペジャスと知り合い、より攻撃サッカーへのメソッドを高めている。グアルディオラの「3秒ルール」に2秒足し、失ったボールを5秒以内に回収する「5秒ルール」はフィテッセ時代から始めている。

 2016年1月からはジョルディ・クライフがテクニカルディレクター(強化部門の責任者)を務めるマカビ・テルアビブ監督に就任し、半年でチーム力を引き上げた。その年の夏から、ボスはアヤックスの監督を務めた。

●ボス戦術とドルトムントの親和性。香川の復帰にも期待が

 5年に及ぶフランク・デ・ブール政権のサイクルが終わり、これまでのサッカーより縦に早く、一気にシュートまで持ち込むボス監督のサッカーは、選手たちに大きな戸惑いを生んでしまい、前半戦はリーグ戦でもたついてしまった。その結果、後半戦の追い上げも虚しくフェイエノールトに優勝を譲ってしまったわけだが、最終的にチームを完成品に仕上げたという意味において、ボスのチームビルディングの手腕は確かに高いと言えよう。

「攻撃的で魅力的なサッカー」という点で、ボスが目指すサッカーは、ボルシア・ドルトムントのサッカーと親和性が高い。「5秒ルール」に関しても、ゲーゲンプレスにつながる点がある。アヤックスでは失った瞬間、ボールに近くにいる選手3人から4人が相手に襲いかかり、残りの選手たちはボールの次の行き先を予測するポジショニングを取っていた。この守備戦術は、味方との共通理解とコンディションの維持が高いレベルで要求される。

 実はアヤックスはボス監督が就任したばかりのプレシーズンで、アマチュアのAFCと2-2で引き分けるなど、新戦術の実践に不安を抱えていた。CLプレーオフでは選手との話し合いの末、ボス監督が妥協してややラインを下げてオーソドックスに戦ったものの、ロストフとのアウェーゲームに1-4と大敗する失態を演じている。その後、ボス監督は選手たちのシャッフルを重ねて後半戦にピークを持ってきた。

 今季のプレシーズンで、ボス率いるボルシア・ドルトムントは4部リーグのロート・バイス・エッセンに2-3で敗れている。ボス監督のプレシーズンのコンディションメソッドは2部練習をすることなく、徐々に上げていく方法をとっている。左肩の脱臼から復帰を目指す香川真司に関しても、しっかりプログラミングされているのは間違いない。

 フランク・デ・ブールからボスに監督が代わってから、アヤックスの負傷者は一気に減った。香川もボス監督のメソッドを信用し、まずは焦ることなく100%の状態に戻してから実戦に加わって欲しい。

(取材・文:中田徹)

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