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映画『十年』が予見する香港の暗い未来

7/14(金) 12:20配信

Wedge

 香港映画『十年』が日本で22日より公開される。2016年に香港で上映されるや大反響を呼び起こし、香港金像奨の最優秀作品賞など、香港の内外で多くの映画賞を獲得した話題作だ。

 「10年後=2025年」の香港はいったい、どのような社会になっているのか。不安と恐怖のなかに、かすかな希望はあるのか。そんな香港の若者たちの絞り出すような必死の問いかけを正面からぶつけた必見の作品である。

 中国政府を震撼させた2014年の民主化デモ「雨傘運動」の前に企画され、映画のストーリーをなぞるように雨傘運動が発生し、書店主の誘拐事件が起きるなど、中国政府の圧力で香港社会の自由は削ぎ落とされている。

 制作費はたった750万円。最初は単館上映だったが一気に評判を呼び、最終的に1億円近い興行収入をあげた。その反響の大きさは、それだけ、香港の状況が悪い、ということにほかならない。

 香港返還20周年を迎えた7月1日には、中国の習近平・国家主席が自ら香港に乗り込み、香港の民主化運動に今後も強硬な姿勢で応じていくことを宣言した。「東洋の真珠」と呼ばれ、英国統治のもとで守られてきた言論の自由や司法の独立の伝統は、かつてない危機にさらされている。その危機の実像をつかみたければ、まずは本作を観ることをお勧めしたい。

香港に漂う「言葉狩り」への不安

 映画『十年』はオムニバス形式の作品で、『エキストラ』『焼身自殺者』『冬の蝉』『方言』『地元産の卵』という5作からなる。それぞれ異なったストーリーなのだが、壊されていく香港の将来に対する「恐怖」が5作品全体を貫いており、次々と悪夢を見させられている気分にさせられる。

 このなかで『地元産の卵』という作品は特に今の香港を象徴する内容となっている。原題は『本地蛋』。「本地」という文字が、2025年の香港では禁句になっており、その禁句リストをもった少年団が巡回し、香港市民に「本地」という言葉を使わないように取り締まっている。

 「地元産の卵」と書かれた卵を売っている雑貨店に少年団が押しかけ、香港で唯一卵を生産していた養鶏業者は当局のいやがらせで生産の中止を決定する。少年団は文化大革命の少年少女の紅衛兵をモチーフにしていることは明らかだ。

 「本地」=地元というありきたりの言葉を使っていけないという設定は、日本人にはわかりにくいかもしれない。近年、香港で愛国教育によって「中国人」を強調する動きが強まっているなかで、香港の独自性をアピールする「本土」や「本地」などの言葉がいつか規制されて語れなくなるのではないか、という不安を伝えようとする内容なのだ。

 実際、「香港独立」を意味する「港独」という言葉を語ろうものならば、罪に問われかねない空気が最近の香港では強まっている。思想の自由という観点からすれば、独立を語ることには何の法的な問題もないはずだが、いまの香港にはそれを許さない重苦しい空気が漂う。そんな「言葉狩り」の状況に置かれた未来の香港を予見するように作られた映画が『十年』であり、『地元産の卵』なのである。

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最終更新:7/14(金) 12:20
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