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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『アリーキャット』『ハローグッバイ』

7/14(金) 21:05配信

リアルサウンド

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品をプッシュします。

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■アリーキャット

 猫派? 犬派? 私は鳥類派です。そんなリアルサウンド映画部のゆとり女子・戸塚がオススメする作品は、『アリーキャット』。

 本作は、野良猫(alley cat)のように街の片隅でひっそり生きる男の再生をテーマにしたクライムサスペンス。元・ボクシングの東洋チャピンオンで、今は警備会社のアルバイトをしている男・朝秀晃(マル)が、ひょんなことから自動車の整備工場で働く男・梅津郁巳(リリィ)とバディを組み、ストーカー被害にあっているひとりの女・土屋冴子を守るために奮闘する模様を描く。窪塚洋介とDragon Ash・降谷建志が主演を務める。

 「猫に九生有り」ということわざがあるように、猫は沢山の命があり、9回も生まれ変わることができるという迷信があります。『アリーキャット』は、人生に躓いた人間が、猫のように新たに生まれ変わる物語です。一匹の猫がきっかけで出会う、マルとリリィ。そして、そんな二人が偶然出会う冴子。深い理由も運命も、奇跡もない。どこに向かいどこに着地するのか、先が見えない。ゆったりとした時間が流れたかと思ったら、急にせわしなくなり、気づいたら緊迫感溢れる空間へと迷い込んでいる。そんな野良猫のような、自由で気まま、そしてとてつもなくタフな映画です。

 当初、『アリーキャット』というタイトルから想像していた内容とはまるで違っていて、いい意味で予想を裏切られました。同時に、こんなにも『アリーキャット』というタイトルがしっくりくる、ふさわしい作品はほかにない。この作品のタイトルは『アリーキャット』以外にありえないと思うのだからなんとも不思議です。

 裏社会を大胆かつ劇的に描いているのですが、その世界もまた現実と地続きであることをどこか感じさせます。ふわふわと夢を見ているようなのに、鋭利な刃物で刺されたような痛みがあります。一度挫折し、フェードアウトした人間は、立ち上がることが難しい。面倒だし、何より怖いのです。どうしようもなく臆病になっています。勇気を奮い立たせ、いざ立ち上がろうとしても、もう自分ひとりではどうしようもできないところまで落ちてしまっていることもあります。そんな大人たちに、絶望も希望もいっぺんに与えるような、そんな作品です。

 何と言っても、窪塚さんと降谷さん演じるマルとリリィの空気感が素敵でした。大人でも子供でもないマルとリリィ。そんな二人の関係性は、あまりにも自然で、本当にどこかで生活していて、笑いあっているんじゃないかと錯覚してしまいます。どうしようもなく弱虫でカッコ悪いマルと、猫のように自由で気ままなリリィ。猫以外には共通の話題も、趣味もない。でも、なんとなく気が合う二人。言葉では説明できないほど、深い絆を感じます。そんな二人は、どこまでも優しく温かい。

 さらに映像や小道具、衣装なども全てが洗練されていて、美しいです。そしてなんだかちょっと懐かしい。視覚だけでも充分楽しめます。週末『アリーキャット』を観て、あなたも生まれ変わってみませんか?

■ハローグッバイ

 リアルサウンド野球部、横浜DeNAベイスターズファンの石井がオススメするのは、菊地健雄監督作『ハローグッバイ』。

 本作の監督・菊地健雄さんとは不思議な縁がありました。昨年1月に閉館を迎えた渋谷のミニシアター・シネマライズ。私は、閉館までの最後の3年間、アルバイトとして働いていたのですが、菊地監督もまた、かつてシネマライズでアルバイトをしていたスタッフのひとりでした。

 その縁もあって、インタビューをさせていただいたり、プライベートな話をする機会もあり、人柄を知れば知る程、その人間性に惹かれていきました。だからこそ、本作へのハードルも否応なしに高くなっていたのですが……その期待をまったく裏切らない、むしろ遥々と越えていく瑞々しい青春映画に仕上がっていました。

 派手な女子グループに所属し、元カレとの間に子供ができてしまったと思い悩む「はづき」と、いつもひとりぼっちの優等生「葵」。対象的なふたりが、認知症のおばあさんと偶然出逢ったことをきっかけに、“友達”となっていく過程が本作では描かれます。

 学校、部活、家、会社、サークル……etc、意識的にせよ無意識的にせよ、人は所属するコミュニティにあわせて自分の顔を変えます。ときには“仮面”を被り、まったく違う自分になることもあるでしょう。円滑に会話を進めるために、我慢したり、相手に気を遣ったり、相手に合わせたり。スクールカーストという言葉が定着したように、仮面を被る機会が一番多いのは中高生の少年少女たちかもしれません。ましてや今はSNS時代。本作でも描かれるSNS陰口描写を観ていると、心底自分の高校生時代にはなくてよかったと感じました。

 誰といるときが一番“素顔”になれるのか。はづきと葵は、互いを深く知らないからこそ、そこには打算関係がありません。偶然知り合った、もたいまさこ演じるおばあさんのために行動することで徐々に生まれていく連帯感。いつしか、ふたりでいるときこそが、素顔でいられる存在になっていきます。しかし、だからといって、ふたりが親友になるわけではありません。あくまで、同じ教室にいるときは“他人”のまま。それでも、数年経った後でもこのふたりは結びついている、そう思わせてくれる繋がりが、ふたりの視線を通してスクリーン越しに伝わってきました。

 男性であり30代後半の菊地監督が、これだけ女子高生の繊細な感情を切り取っていることには驚かされます。脚本の加藤綾子さん、企画の内田わかさんら女性スタッフの意見も参考にされたとは話していましたが、主演のふたりとの適切な距離感を取れる菊地監督だからこそ生み出すことができたといえるでしょう。

 「友達とは何?」という菊地監督からの問いかけを、本作を観て考えてほしいです。

リアルサウンド編集部

最終更新:7/14(金) 21:05
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