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買春エリート夫の「家庭のため」という言い分

7/14(金) 9:00配信

東洋経済オンライン

華やかなグローバル都市ニューヨーク。ウォール街の金融エリートや新進気鋭のアーティストが活躍する一方、売春婦、移民、ヤクの売人たちもしのぎを削り、セレブと貧困層とが社会階層を超えて共存している街だ。その実態を描いた『社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた』が刊行された。

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本書の著者スディール・ヴェンカテッシュは、ニューヨークの貧困層を中心に社会学者として研究を進めていたが、街全体の本当の姿を知るには、中流や上流の実態も知る必要があることに気づく。

ここでは、ヴェンカテッシュが研究に協力的な「高級売春婦」キャシーの尽力によりエリート買春客マーティンをインタビューすることになった箇所を本書から抜粋し、一部編集のうえ掲載する。

■これまで研究していなかった買春客の側

 キャシーは彼女らしい興奮した口調で叫んだ。「あたしのお客があなたと話したいって!」

 「君を買う人ってこと?」

 「マーティンっていうの。ほんとにいい人だよ」

 これには驚いた。買春客の側は、セックスの売買でぼくが研究してない側面だった。ヤクの売人や風俗嬢相手にやることがもう山ほどあったし、たぶんぼくは、おカネを払ってセックスすることについて話したい男なんてあんまりいないだろうと高をくくっていた。

 でもキャシーによると、彼女はマーティンに、ぼくはとても心が開けていて、犯罪者みたいな扱いを受けたことは一度もない、ずっとそう話してくれていたそうだ。「彼、とにかく誰かと話したいんだと思うよ」と彼女。「彼、最近あんまりヤりたがらないし」

 欲求不満の男相手に精神分析屋のお役目なんてやる気ないし、と言ってみた。

 キャシーは怒り出した。「あなた、この世界のことなんでも知りたいって言ってたでしょ。あのね、お客もこの世界の一部なの。お客がいないと、この世界なんて最初っからないんだって」

 何日かして、また別のホテルのバーで、ぼくはマーティンと向かい合って座っていた。やせて背が高く、スーツは仕立てのツイード、胸のポケットには青のハンカチ、話しながらまっすぐなブロンドの髪が目にかかるのをしょっちゅうかきあげる。髪の毛1本1本、それぞれあるべき場所が決まってるみたいな調子だ。

 「3年ぐらい前からかな」と彼は切り出した。「うまくいかなくなってね」

 いやまだなにも聞いてませんって!  だいたい、こんにちはなんてあいさつもまだだし。

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