ここから本文です

Uを通過してメジャーリーグのベンチに座ったオブライト――フミ斎藤のプロレス読本#045【全日本ガイジン編エピソード14】

7/14(金) 8:50配信

週刊SPA!

 199X年

 アメリカ人レスラーの多くは、全日本プロレスをベースボール・チームのような感覚でとらえている。監督はもちろん、ジャイアント馬場である。

 年間スケジュールがきっちりと決められている。ヤングボーイズがいて、ミッドカード・ガイズがいて、毎シーズン、打率3割を打つホームラン・バッターがたくさんいる。

 ジャパニーズとガイジンに平等のチャンスが与えられる。そして、歴史と伝統がある。

 ゲーリー・オブライトにとって、オールジャパンはいくら手を伸ばしてもとうてい届きそうにない、はるかかなたのそのまた向こうのリングだった。

 スタン・ハンセンがいる。ドリー・ファンクJrがいる。アブドーラ・ザ・ブッチャーがいる。レジェンドたちはこのリングで花を咲かせ、このリングでトシをとった。

 ビデオでしか観たことがないドリーやアビーは『刑事コロンボ』のようなものだ。ちょっとくらいおじさんになっても本物はホンモノである。

 メジャーリーグにはメジャーリーグのタイムテーブルがある。『新春ジャイアント・シリーズ』が4週間。『エキサイト・シリーズ』が2週間。『チャンピオン・カーニバル』のリーグ戦が4週つづいたあとは『スーパーパワー・シリーズ』が2週間。

 『サマーアクション・シリーズ』は“Ⅰ”と“Ⅱ”で合計7週間。秋になると4週間の『ジャイアント・シリーズ』があって、11月から12月第1週までの『世界最強タッグ』(3週間)で全日程が終了する。

 1シーズンのツアーは、トータルで27週間。アメリカ人レスラーが全8シリーズにフル出場したとすると、1年間に16回も太平洋を横断することになる。ジョニー・エース、ダグ・ファーナス、ダニー・クロファットらは、もう何年も何年もこのサイクルで生活している。

 UWFインターナショナルに在籍していたころのオブライトも、1年のうちに何度もアメリカと日本を往復した。出発地がネブラスカのオマハだった時期もあったし、南部のかなり深いところのペンサコーラだったこともある。

 ペンサコーラは、フロリダ州の南西部の端っこにある人口6万人足らずのリゾート・タウン。メキシコ湾が目のまえに広がっていて、USエアフォースのベースがある町。

 オブライトは、体の弱い母ジャネットさんとスープの冷めない距離にいられるように、北部ネブラスカから常夏のパンハンドル――フライパンの手の部分=フロリダ半島とペンサコーラの地理的関係――に引っ越した。ペンサコーラから成田までは約16時間の空の旅である。

 ミスター・ババにとって、プロレスラーのキャリア、レスリング・ビジネスにおけるキャリアがどのレベルにあるかは、その選手が旅をしてきた時間で決まるらしい。“ジャイアント馬場Giant Baba”は36年も旅をつづけてきた。

 スーツケースづくりはツアー生活のベーシックのなかのベーシック。移動を苦にしないこと。どこででも規則正しい生活がおくれること。自己管理のできるプロフェッショナルであること。どんなに疲れていても、つねにベストファイトを心がけること。

 オブライトの目には、オールジャパンのジャージの上下がベースボール・チームのユニフォームのように映っている。

 Uインターのボーイズもたしかにおそろいのジャージを着ていたけれど、オブライト自身がそのチームの一員なのかどうかという部分には最後の最後まで自信を持つことができなかった。リングに上がってしまえば、あとは試合をするだけなのに、いつもどこかに不安がつきまとっていた。

 オールジャパンのベンチには、メジャーリーガーたちがどかんと腰を下ろしている。ハンセンは“不動の4番バッター”の貫禄で遅れてきたルーキーをあたたかく迎え入れてくれた。

 Uのリングではものすごく長く感じた“3分間”がこのリングでは一瞬にしかならない。1試合のうちに“打席”は3回も4回もまわってくる。

 “打撃コーチ”のハンセンは、バッターボックスに立ったときの構えから教えてくれた。オブライトは、いまやっとホームラン・バッターの卵になった。(つづく)

※文中敬称略

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

日刊SPA!

最終更新:7/14(金) 8:50
週刊SPA!

記事提供社からのご案内(外部サイト)

週刊SPA!

扶桑社

2017年8月15・22日合併号
08月08日発売

¥440

・[東京VS地方]貧困のリアル
・[情弱ビジネス]騙しの最新手口11連発
・[神戸5人殺傷事件]報道できない裏側
・猛暑の[悪臭スポット]を測定してみた