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Brexit交渉でメイ首相に汚名返上のチャンスはあるのか

7/15(土) 12:11配信

Wedge

 英フィナンシャル・タイムズ紙のフィリップ・スティーブンスが、6月10日付の同紙で、選挙に敗北したメイ首相だが、混乱の中にも救いを見出すチャンスはあるという論説を書いています。論旨は以下の通りです。

 時には混乱の中にも救いがある。総選挙の結末はEUとの将来の関係の在り方を考え直す機会でもある。Brexitはメイ政権が想像するような激烈な断絶である必要はない。しかし、好ましい結果を得るにはEUの寛大さと忍耐を試すことになる。

 メイは大威張りで交渉に臨もうとしていた。離脱派は国を死に体から解き放つのだと吹聴していた。選挙で新たなマンデートを得て、メイはEUにその振舞いを改めさせる算段であった。従って、EUが情容赦なかったのは仕方ない。誰も英国が勝手に落ちた穴から救い出してやろうと思わなくても仕方ない。しかし、ロンドンの政治的麻痺は極端なBrexitを脱線させ、もっと緊密な関係へのチャンスを開く。また、ほんの僅かだが、Brexit全体が解体することも可能である。どちらも欧州及び英国の戦略的利益にとって関係断絶よりも好ましい。

 昨年、英国の有権者は僅差でEU離脱を選択したが、今度はメイをはねつけた。「主張が通らなければ席を立つ」という馬鹿げた脅しは子供の遊びでしかなかった。有権者が意識的に立場を転換したと見ることは間違いである。自分こそが強く安定したリーダーだと主張したメイの正体はおよそそうではないことが見破られた。Brexit選挙だといいながら、メイはそのオプションを議論することを拒否した。有権者の動機は複合的であるが、Brexit交渉に対する影響には重大なものがあろう。メイは、暫くは少数派内閣を率い得ようが、彼女の思い描くBrexitについて信認が与えられたとは最早いえない。単一市場と関税同盟を離脱するという約束は、下院の支持が得られない以上、実施不可能である。

 コービンは労働党が呑み得るBrexitは何かをわざと曖昧にしているが、メイの処方箋は明確に拒否している。メイの屈辱的敗北によって保守党内のバランスも動いている。国民投票以来静かにしていた親欧州派が首相官邸に物をいうチャンスが生まれている。

 英国には少数派内閣の経験はあり、メイは北アイルランドの民主統一党の支持を得ることになっている。しかし、少数派内閣がEU離脱というような巨大な問題に遭遇したことはこれまでない。議会にはBrexitに必要とされる法案可決に必要な実効的多数はない。一方で、レームダックの首相だと知っているEUを相手にメイは交渉するわけである。

 メイには汚名を返上する残されたチャンスが1つある。それは、英国を欧州経済領域にとどめ置くソフトなBrexitについて政党間のコンセンサスを得ることである。このコンセンサスが得られれば、メイはこの取引について国民投票を行うことを約束出来る。もし、メイがこの方向に動くのなら、メルケルとマクロンは交渉の時計の針を止めて助けてくれて然るべきである。英国人には付き合い切れないと思うであろうが、欧州はそれだけ重要なのである。

出典:Philip Stephens ‘Post-election chaos promises Britain Brexit salvation’ (Financial Times, June 10, 2017)

 これ程の屈辱的な失敗には先例がないでしょう。必要でない選挙に打って出たために議会の過半数を失い、政権は弱体化し、首相の権威は傷つき、議会は更に分裂を深めることとなりました。地滑り的勝利でBrexit交渉のための国内基盤を固め、必要な妥協を可能とする環境を整えたいという思惑だったと思われますが、無残にも打ち砕かれました。通常なら、メイ首相は辞めて当然でしょうが、少なくとも現時点では続投する構えです。史上最短の在任期間で辞めることはプライドが許さないのかも知れませんが、Brexit交渉を目前に控える尋常でない状況で、保守党の党首選挙をしている暇はなく、これといった後継者も見当たらず、止むを得ざる続投であるのかも知れません。

 選挙結果を受けて、メディアが一様に指摘していることが2つあります。第1に、メイが志向するBrexitはハードなBrexitですが、メイに最早その資格はなく、進路を変えるべきだというものです。この論説もそうです。ハードなBrexitとは単一市場から離脱するBrexitという意味のようです。そういう意味でなら、BrexitはBrexitであって、ハードもソフトもありません。EUから離脱する以上、単一市場のメンバーシップを失うのは当然です。メンバーシップは失うが、日本や中国と同様、単一市場に対するアクセスはあります。メイが言って来たことは、このアクセスを出来るだけ有利なものとするよう野心的な貿易協定を結びたいということです。その交渉次第でBrexitはハードにもソフトにもなります。

 第2に、上記と関連しますが、メイは強くて安定したリーダーシップを自分に任せろと頑強に繰り返すのみで、Brexitのビジョンを語りません。これを国民に具体的に語る必要があるというものです。この論説もそうです。それが出来ればそれに越したことはありませんが、交渉相手のあることで、限界があります。キャメロンは交渉目標を明らかにし過ぎて失敗し、メイは当初から交渉の実況中継はしないといってきました。メイにとって必要なことは、そういうことではなく、Brexit交渉には無限の可能性があるわけではなく、一定の枠の中での可能性しかないということを国民に納得させることではないかと思われます。

 この論説の筆者は、Brexitは間違いだと思っていますから、Brexit全体が崩壊しても構わないといっています。少なくとも、欧州経済領域にとどまる可能性に救いを見出そうとしています。これはノルウェー型のモデルのことだと思いますが、このモデルでは単一市場のメンバーに類する待遇を得られますが、その法制には一切発言権がなく、財政負担も求められます。英国民の意識に革命的な転換がない限り、オプションになり得る筈はありません。

 メイは何事もなかったかの如く交渉に臨むのでしょう。しかし、保守党がメイを党首として次の選挙に臨むことはあり得ませんし、何時まで首相の座にあり続けられるかを疑問視する見方が支配的です。そういう状況では、EUとの関係というよりも、国内の多様な意見に目配りをし、必要な妥協をしてEUとの妥当な合意に導くための国内の合意形成との関係でメイの立場は苦しいです。EUとの交渉結果について議会の支持が得られる保証もありません。この論説は、時には混乱の中にも救いがあるといいますが、この混乱はハードなBrexitどころか、「崖から転落するBrexit」に一歩近付くものかも知れません。

 メイにとって唯一の朗報は、スコットランド民族党が56から35に大きく議席を減らし、独立を問う2回目の住民投票が遠のいたことです。Brexitに係る頭痛の種が1つ減りました。

岡崎研究所

最終更新:7/15(土) 12:11
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