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フォードの中国進出で、トランプの「雇用創出」公約に暗雲 --- 白石 和幸

7/15(土) 7:03配信

アゴラ

トランプ大統領が大統領選挙戦中からメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)は米国にとって最悪の貿易協定だと言っていた。大統領に選ばれた際には、この協定を破棄し、メキシコに進出している米国企業の雇用を米国に取り戻すと公言していた。

大統領に成るや、早速その公約の実現に取り掛かった。その対象にされたのが、米国の自動車メーカーであった。トランプの脅迫の前に、先ずフォード社が屈した。メキシコのサン・ルイス・ポトシー市で16億ドル(1760億円)を投資して、2800人の雇用を生むプロジェクトを今年1月に中止したのであった。この投資の目的は、そこで車種フォーカスを生産する為であった。

メキシコで投資する代わりに、その投資の一部を米国のミシガン州の同社工場に充てるとした。そこで僅かではあるが新たに雇用の創出に繋がることになった。

フォード社のこの決定をトランプ大統領は当初歓迎した。

しかし、6月21日になってフォード社はフォーカスの生産を中国に移すことを発表したのである。しかも、ミシガン州ウエイン市で生産されているフォーカスも2018年半ばに生産を打ち切るというのである。フォーカスの生産中止で空いた生産ラインをピックアップトラック・レンジャーの生産で埋めるとしている。よって、雇用の喪失にはならないというのがフォード社の経営陣の弁明である。

そして、フォーカスの中国からの輸入は2019年半ばから開始される予定だという。

経営陣と言えば、1月にメキシコからの撤退を決めたCEOマイク・フィールズは既に解雇された。後任にはオフィス家具メーカーのスチールケース社に籍を置いていたジム・ハケットが就任している。

しかし、フォード社の今回の決定はトランプ大統領が選挙公約として掲げていた米国での雇用の創出には繋がらず、投資先がメキシコから中国に代わっただけである。

米国の6月21日付ヒスパニック電子紙『Viva NOTICIAS』は今回のフォード社の決定について、「フォードはイバンカ・トランプの例を踏襲することを決定した」「労賃が安価であるということから中国とビジネスを始めようとするものである」と指摘した上で、「大統領がそれを批難することはないであろう」と言及した。「何故なら、彼の娘が中国の利点を利用しようとした最初の人物なのだから」と述べた。

また、トランプ大統領は輸入車が増えることにも反対している。よって、フォーカスが中国から輸入されることにも彼は我慢せねばならないことになる。

フォードの副社長ジョー・ヒンリッチは中国への進出を正当づけるかのように、中国製で品質の高いものを消費したいという気持ちが米国の消費者の間で存在していることを挙げた。その具体例として、アップルのiPhoneやジェネラルモーターズのビュイックなどが中国から米国に輸入されていることを指摘した。

しかし、果たして中国の労賃は安価なのであろうか。その疑問を解くべく、最近は色々な情報が提供されている。結論的に言えば、現在世界で労賃で最も競争力がある国のひとつがメキシコなのである。対象とされる生産品目によっては、メキシコの方が中国よりも生産コストは安いものもあると判断されている。

自動車生産の場合にメキシコであれば、米国市場は隣国であり、陸続きで国境を通過するだけで良い。中国からだと海上運賃もかかる。

ジョー・ヒンリッチは「フォーカスの生産を中国に移すことによって、5億ドル(550億円)の節約になる」と指摘している。しかし、その比較対象が米国なのか、メキシコなのか明確にしていない。サービス部門だけ見ると、そのコストはメキシコが米国に比べ5割も安いとされている。

フォードが模索しているのは10億ドル(1100億円)の節約だという。自動運転車や電気自動車など、高度の技術レベルが要求される分野での開発資金が必要とされているのである。

トランプ大統領が問題視しているNAFTAの見直し交渉が今年後半から開始されることになる。メキシコの輸出の8割が米国向けであるが、米国でも多く州で経済はメキシコとの貿易取引に依存している。しかも、メキシコとの貿易で米国では600万人の雇用が生まれている。それを考慮すれば、トランプ大統領が一人はしゃいでいるだけで、現状のNAFTAの維持が米国にとっても最適であるということが近い将来証明されるであろう。

トランプの一方的な見解からの判断では、結果は元の木阿弥となるような印象も与えている。

白石 和幸

最終更新:7/15(土) 7:03
アゴラ

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