ここから本文です

ある奴隷少女の手記から考えさせられること

7/15(土) 18:00配信

東洋経済オンライン

 新潮文庫のラインナップに、新たな古典名作が加わった。しかし、『小公女』や『若草物語』のようなフィクションではない。著者自身が序文で「読者よ、わたしが語るこの物語は小説ではない」と言明している通り、「ある奴隷少女」本人が奴隷制の現実をつづった世にも稀なる手記なのである。アメリカでは、すでに大ベストセラーになっているが、日本でも長く読み継がれる本になるに違いない。

この記事の写真を見る

■白人著者によるフィクションとみなされていた過去

内容に入る前に、本書『ある奴隷少女に起こった出来事』がたどった数奇な運命についてふれたい。本書が刊行されたのは、1861年である。作中人物が存命だったため、「リンダ・ブレント」というペンネームで執筆され、一般的には、白人著者によるフィクションとみなされて読まれた。奴隷解放運動の集会などで細々と売られたが、次第に忘れ去られ、関係者の死とともに著者・ジェイコブズとのつながりも分からなくなっていった。

 転機が訪れたのは、出版から126年を経た1987年。歴史学者がジェイコブズ直筆の手紙を発見し、本書がフィクションではなくリンダ(=ジェイコブズ)の手記であることが証明されたのである。その後、アメリカでじわじわと売行きを伸ばし、ベストセラーになった。それを偶然目にした堀越ゆき氏の翻訳により、150年の時を経て、ようやく私たち日本人のもとに届いたのである。

 「あとがき」を読むとわかるが、訳者の堀越氏は現役のサラリーマンだ。出張で飛び乗った新幹線でたまたま原著に出会い、心を揺さぶられ、自分が翻訳せねばと思い立った。その偶然もまた、この本に与えられた見えない力のひとつであろう。そして私も運命のバトンをうけとり、居ても立っても居られずこのレビューを書いている。

■自分が奴隷であることを知らなかった少女

 それでは、本書の内容の紹介にうつりたい。奴隷制下のアメリカ南部で、奴隷として生まれた少女のもとに起きた残酷な運命。人種の垣根を越えて助けようとする人々への感動。保身のために裏切る人への落胆。読み手の心を揺さぶる出来事が、次から次に起きる本である。「ある奴隷少女」の生涯をたどるなかで、現代を生きる私たちには思いもよらない言葉に出会い、深く考えさせられるだろう。

1/3ページ

東洋経済オンラインの前後の記事