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『獣道』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

7/16(日) 11:00配信

文春オンライン

「あたしはあなたとはちがうのっ。孤独じゃない、孤高なの!……アーアーアーアァー!」と叫び、ぶっ壊れたように校庭に走りだしていくヒロインの姿に、主人公と一緒にこっちまで恋に落ちてしまった。いつかどこかで確かにあったような気がする青春の一コマ。てんでダメな大人たちと、居場所がないのに死ねない少年少女たち。そして走っても走ってもロクなもののない町。地方都市の路地裏は汚い獣道だ。

 亮太は中学生。ある日クラスに変な転校生、愛衣(あい)がやってきた。黒板に本名じゃなく「アナンダ」と書いて、「好きなものは神様です」と自己紹介してみせる愛衣。えー、なに、なにソレ!?

 彼女が気になるものの、ほどなく学校では見かけなくなる。と、高校生になって獣道で再会。こんどはなぜか金髪にジャージ姿の典型的ヤンキーに“擬態”していて……?

 物語は、モラトリアムを抱えながらも成長し、やがて大学に進学して田舎町を離れていく亮太と、居場所がなくて苦しみ悶え、夜の獣道を彷徨う愛衣の青春を追っていく。

 愛衣はじつは、母親にネグレクトされたり、宗教施設に七年も放りこまれたりと、幼少期から苦労し続けだった。安定した居場所のなかった子供は、大人になってもなかなか定住できないものだ。自然と、横に横にとスライドする旅人みたいな生き方になる。

 人間が実体として知らないものを獲得するのが、どんなに困難な戦いか――。

 全篇を通じ、そんな登場人物たちに対する作り手の祈りのような視線が感じられる。作り手になるということもまた、居場所を得ようと戦うことだから、ですか?

 若い役者さんがいい!! 恋の始まりと終わりの二回だけ笑う須賀健太。人生をスライドしていく伊藤沙莉。望月峯太郎の漫画顔で暴れる半グレ吉村界人。韓英恵も、刃みたいなあの目で斬りつけられたように記憶に残った。

INFORMATION『獣道』
7月15日(土)シネマート新宿ほか全国公開
http://www.kemono-michi.com/

桜庭 一樹

最終更新:7/16(日) 11:00
文春オンライン

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