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宇多田ヒカルの新曲は“ヒップホップ的な手法”がカギに? クリス・デイヴ参加の話題作を聴く

7/16(日) 13:00配信

リアルサウンド

 宇多田ヒカルが、配信シングル『大空で抱きしめて』を7月10日にリリースした。

 同作は宇多田にとって<EPICレコードジャパン>移籍後初めてリリースした音源であり、サントリー天然水『水の山行ってきた 奥大山』篇 のCMにも起用されている一曲。歌詞に対するファンの反応が楽しめる特設サイト『宇多田ヒカル 「大空で抱きしめて」歌詞サイト』も話題となっている。

 今回の「大空で抱きしめて」について、自らもメジャーデビュー経験のあるミュージシャンであり、ライターとしてはリアルサウンドでも音楽分析記事を執筆し、『メロディがひらめくとき~アーティスト16人に訊く作曲に必要なこと』などの著作も持つ黒田隆憲氏に分析を依頼。同氏はまず、前作『Fantome』との違い、そこからの変化を感じる点について、こう語ってくれた。

「前作『Fantome』は、2013年に急逝した母、藤圭子に捧げるアルバムで、“生と死”というテーマに真っ正面から向き合い、『忘却』や『花束を君に』など“死”の匂いが濃厚な楽曲も含まれているという、ある種特別なアルバムでした。それに対して、今回の新曲はそれを踏まえた上で次のステップへ進もうとしている印象です。歌詞の内容が、何がしかの理由で今は会えなくなってしまった人(恋人なのか、家族なのか、友人なのかは受け取る人に委ねている)と、いつか再び会える日を願うもので、前作が極めてパーソナルな内容だったのに対してより普遍的になっているのも特徴的。おそらく、CMのための書き下ろしということで、彼女自身もそこは意識したのかもしれません」

 また、ヒップホップ界随一のドラマー、クリス・デイヴが同曲に参加していることも話題となったが、黒田氏は楽曲自体の特徴について、このように分析する。

「楽曲も、『Fantome』の延長線上という印象。例えば、Aメロは『人魚』の持つオールディーズのようなムード、Bメロ(<雲の中 飛んでいけたら>の部分)とサビ(<いつの日か また会えたとしたら>の部分)は、『道』と『忘却』の抑揚のある切ないメロディと呼応しているように思います。クリス・デイヴのドラムも含め、音数をぐっと絞り込んだアンサンブル、そこに絡まるストリングスの雰囲気も『Fantome』っぽい。Cメロに入ってくるハプシコードはCocteau Twins『Lorelei』のようで、彼女のCocteau Twins好き、This Mortal Coil好きが垣間見れるポイントとして個人的に強く惹かれました。そういえば『Fantome』を作っていた時もThis Mortal Coilを好んで聴いていたようなので、その影響がまだ残っているのかもしれません。一方で、2本のエレキギターの絡みや、後奏に登場するインダストリアルなパーカッションサウンドは、『Fantome』にはなかった新たな要素ではないでしょうか」

 さらに、この曲は“ヒップホップ的な手法”を取り入れたことも一つの特徴であると続ける。

「Aメロが忙しない日常を描写し、Bメロでドラムのブレイクとともに広い空がパーっと開けるような開放感があり、Cメロで会えない人への思いを切々と綴るという、ブロックごとの“絵の描き方”も秀逸ですし、それによってこの曲のヒップホップっぽさがうまく作用しているように思えます。セクションごとの楽器の抜き差しや、重低音の効いたミックスバランス、ブレイクビーツっぽいループ感のあるリズムなど、ヒップホップ的な手法を“ポップミュージックとして”昇華させた楽曲、という印象を受けました」

 最後に、同氏は宇多田の今後の展開について、こう期待を寄せる。

「3.11以降の日本人の喪失感は今も続いているというか、むしろより深まっていて、それが『Fantome』の、彼女自身のパーソナルな体験と共鳴したのが、あのアルバムがあれだけ受け入れられた一つの理由だと思っています。新章ではその“喪失感”とどう向き合っていけばいいのか、”喪失感”を抱えて、私たちはどう生きていけばいいのか、という部分に焦点を当てた作品を聴いてみたいです。サウンド的には、クリス・デイヴの参加でも生じた“黒っぽさ”が引き続きどう作用するのか楽しみですね」

 7月28日には、ドラマ『ごめん、愛してる』(TBS系)の主題歌である「Forevermore」もリリースされる。この2曲を経て、宇多田が次に到達する新境地はどんなものになっていくのだろうか。

中村拓海

最終更新:7/16(日) 13:00
リアルサウンド