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捨てられる銀行―銀行員なら、監督官庁の考えを知っておこう

7/18(火) 11:10配信

Wedge

 金融庁の森長官の改革について書かれた本です。金融庁の考え方が理解できるので、地域金融機関の役職員は、一読してみてはいかがでしょうか。内容的には第一章にエッセンスが詰まっていますから、忙しい人は第一章だけでも読んでみましょう。

 内容のエッセンスは、「地域金融機関は、借り手の事業性を評価して(借り手の成長可能性等を分析して)貸すべきで、担保や保証だけを考えて融資の判断をすべきではない」ということに尽きます。

 「地域金融機関は、中小企業に対し、資金を供給するのみならず、継続的に借り手企業の本業を支援し、地域の企業や産業を発展させる事で地域金融機関自体も成長するという両立が必要だ。」といった主張も、なされています。

 しかし、評者には、本書の内容(つまり森長官の基本理念)が、青臭い書正論に感じられます。経済は暖かい心と冷たい頭脳で動いていますが、暖かい心は主に個人レベルで、冷たい頭脳は主に企業レベルで活躍すべきでしょう。企業は慈善団体ではありませんから、基本は自己の利益の追求を目指すものであって、自己の利益より顧客の利益を優先するべきではありません。まして、監督官庁が企業に強制するようなものではない筈です。

 評者を冷たい人間だと誤解されては困ります。評者も個人としては暖かい心を持ち、人並み以上には寄付なども行っています。そのことを御理解いただいた上で、経済学者としての冷たい頭脳の中身を御理解いただければ幸いです。

 アダム・スミスは、各自が自己の利益を追求することで経済がうまく行く、と言いました。しかし、本書は「地域金融機関は、自己の利益よりも借り手の利益を優先しろ」と言っています。株式会社である地域金融機関にとっては、株主への背任行為を強制されることにもなりかねません。これは問題です。強制しないのであれば、「地域金融機関の善意に期待する」というだけで効果があるとも思えません。

 地域経済を発展させることは、地域金融機関の責任ではなく、行政の責任です。地域金融機関は、経済が発展して資金需要が出てきた時に、それに応じて融資をすることが仕事です。もちろん、地域経済が発展すれば地域金融機関も潤いますから、発展に協力することは必要でしょうが、主たる責任者ではありません。

 本書によれば、広島銀行は、マツダ(広島経済の最重要企業の一つ)にとって必要不可欠な部品会社は支えたようです。しかし、それは本来広島銀行の仕事ではなく、マツダが当該部品メーカーの借入に際して銀行に保証書を差し入れるべきでしょう。広島市あるいは広島県が保証しても良いでしょう。広島銀行の株主から見れば、「マツダや地方自治体に保証書を要求すべきだったのに怠った」ということになるのではないでしょうか。

 広島銀行がマツダを支えたことで、地域経済がうまく行ったとすれば、ライバルの地域金融機関にもメリットが及んだはずです。「公共財」を私費で作ってライバルにも使わせてやった「寛大な(御人好しの)銀行」ということになりますが、それを真似するように他行に強要するのは無理でしょう。

 本書によれば、森長官に言われる前から、地元顧客を大事にしてきた地域金融機関があるそうです。理論的には、そうした行動が合理的であった可能性もあります。短期的には借り手の事業に寄り添うことでコストがかかったとしても、借り手が倒産せずに成長して地域経済を発展させれば、長期的な地域金融機関の利益に資することは充分に考えられるからです。

 しかし、もしもそうした地域金融機関が実際に利益を稼いでいるのであれば、他の地域金融機関も真似をしていたはずです。しかし、そうなっていないから森長官が怒っているわけです。そうなっていないのは、そうしたビジネスモデルが利益に繋がらないからではないでしょうか。

 なお、本書が発売された数カ月後、金融庁は「平成28事務年度 金融行政方針」を発表し、その中で、担保・保証がなくても事業に将来性がある先や、信用力は高くないが地域になくてはならない先、などに融資を行わないのは「日本型金融排除」であるとして、金融機関が顧客本位の良質な金融サービスを提供することが望まれる、としています。

 地域になくてはならない先については、地域金融機関の仕事ではなく、地方公共団体が保証すべきであることは、上述の通りです。「事業に将来性はあるが、担保・保証がない先」への融資は、よほど高い金利でないと採算がとれません。

 銀行の融資は、借り手が大きく成長しても貸し手の得られるものは金利収入だけです。一方で、借り手が倒産すれば銀行は貸出元本を失います。「事業に将来性はあるが、担保・保証がない先」への融資は、銀行にとってハイリスク・ローリターンなのです。

 そうした企業に資金を提供するとすれば、投資家が株式投資をする方がはるかに相応しいでしょう。企業が大きく成長すれば投資家は大きな利益を得ますから、投資家にとって当該企業への株式投資はハイリスク・ハイリターンだからです。

 本書には、「赤字で傾いた借り手に対しても、借り手にとって必要ならば追加融資をすべき」とありますが、これも同じことです。赤字で傾いた企業に出資をするならば、ハイリスク・ハイリターンですが、融資をするならばハイリスク・ローリターンです。銀行に「出資せよ」というならば、まだわかりますが、「融資せよ」というのでは、「慈善事業」の強要になってしまうでしょう。それは無理というものです。

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最終更新:7/18(火) 11:10
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