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年間7万社が後継者不在により廃業。日本の町工場も例外ではない

7/18(火) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 総務省が発表した平成27年度の個人企業経済調査によると、後継者が確保できていない日本国内の製造企業は、81.1%にもおよぶ。事業主が60歳以上の割合は76.3%。団塊の世代が70代を迎える昨今、日本のモノづくりを支える町工場の後継者問題は、日々深刻化の一途をたどっている。

 娘である筆者がこういうのもおかしな話だが、父の経営していた工場でも、この後継者問題は最後まで解決できなかった。町工場の抱える社内問題について綴った前2回の「労働基準の変化」、「ワンマン経営のもろさ」に続き、今回はこの「後継者問題」について“継ぐ立場の側”から綴っていこうと思う。

◆零細工場の跡取り娘と知られるや、オトコたちは全速力で逃げて行く

 親が中小零細企業を経営していると、「後継者」として最初に名が上がるのは、否が応でも、その子どもである。幼い頃から自営で働く親、または両親の姿を見ていると、子どもには「自分もいずれこの仕事をする時が来るのだろうか」と考える時が必ずやってくる。

 ところが、そんな子どもが社会人になろうとする頃には、環境も考え方も大きく変わっていることが多い。

 必死で働いてきてくれた親のおかげで、筆者は金銭的には比較的余裕のある暮らしをしてこられたほうだと思う。学生の頃には様々な経験をさせてもらい、大きな夢を抱くようになった。

 が、親が事業をしている子どもには、その夢の矛先が親の事業ではないという皮肉な現象が起きることが多く、例に漏れず、筆者の夢の矛先も、残念ながらやはり“工場”ではなかった。ゆえに、学生時代に父からの「継いでくれないか」という願い出を2回真面目に断っていたのだが、それでも大学卒業間際に工場へ正式に入社することになったのは、前回述べた経緯の通りだ。

 父の営む工場には、物理的に力を要する工程が多く、筆者の中で「自分は女性だから継げない」、「継がなくてもいいと両親も言うだろう」という意識が幼い頃からどこかにあったのかもしれない。

 やはり両親も、自分たちの仕事は女性が継ぐものではないと十分に分かっていたようで、厳密に言えば、昔から彼らには「筆者自身に」というよりも、「筆者の未来の旦那」に継いでもらおうという魂胆があった。

 筆者がトラックで得意先に仕事を引取りに出かける際、母親が言い放つ「いい男も一緒に引き取って来い」という言葉に、毎度ギアをバックに入れても足りないくらいドン引きするも、病気になった父を想うと「そうなったらそうなったで、まあいいか」と心のゲートを開いた時期もあったのだが、女っ気のない性格はもとより、「あのヤンチャな社長の娘」だと知られるや、“ゲートの向こうのいい男”は、ギアをトップに入れても追いつかないくらいのスピードで逃げてゆく。

 それゆえ以前話したように、筆者に声を掛けてくるのは、結局怖いモノ好きな50~60代の長距離トラックドライバーしかいなかった次第である。

◆金型業界に衝撃を与えた3Dプリンタの導入をあえて提案してみるも……

 こうして、2代目として両親と供に工場を経営していくことになったのだが、正直、両親と働くことほど辛いことはなかった。

 筆者の家族は、昔から「馬鹿」が付くほど仲が良かった。極太の大黒柱だったヤンチャな父に、ド天然の母と4歳差の妹。皆が互いを絶妙なバランスで支えながら暮らしていた。病に倒れた大黒柱を突然支えなければならなくはなったが、筆者は幼い頃から両親の働く姿を見ていたことで、社会経験がなくてもすんなり工場には順応できると思っていた。

 ところが、いざ両親とともに働いてみると、全くしっくりこない。最初はただただ筆者の経験不足からくるものだと思っていたのだが、いずれその原因が、「新旧の意見の食い違い」にあると気付き始める。

 父の病気後、異常なまでの円高や、職人の減少などで、工場が不安定の只中にあった頃、世間は3Dプリンタの登場に湧いていた。しかしその一方、金型業界の一部では「これまでか」という絶望感が漂い、多くの関係者が「金型の終焉」を予感した。3Dプリンタは、金型がなくても図面さえ描けてしまえばその場でプラスチック製品が出来上がってしまう。つまるところ、金型で食べている多くの職人が今後、ぞくぞくと路頭に迷う懸念があったのだ。

 当時、現場の新人育成に頭を悩ませていた筆者は、これをある種の「チャンス」だととらえていた。金型研磨を生業とする父の工場には、金型と職人が存在しなければ仕事にならない。この両方が安定しないのならば、3Dプリンタを量産能力が兼ね備わる前に導入し、新しい活路を見出すべきだと考えたのだ。

 しかし、今まで「砥石一本」でやってきた両親にとって、あの機械はただの「びっくり箱」でしかなく、一台試しに導入してみようという筆者の提案は、最後まで通らなかった。何度も説明し、説得したが、「新人育成があなた(筆者)の仕事」と、彼らが今までの方針を曲げることはなかった。

 経験と技術だけでやってきた古い体制の町工場にとって、新規事業への参入は、培った経験に対するプライドや、失敗した時のリスク、軌道に乗せるまでの労力など、多くのハードルを越える覚悟が必要だったのだ。

 このように、先代は「培ってきた経験」を、次世代は「チャレンジ精神」を切り札とするのだが、これが面白いほど真逆であるがゆえに、筆者と両親は、ぶつかることが日常茶飯事となっていった。同じ空間で新旧が議論しても、話はまとまらない。結局平行線のまま家に帰っても、10分前まで一緒だった両親には「ただいま」を言わなくなる。朝食ではその日のスケジュールを確認し、夕飯には工場に引き続き、意見をぶつけ合う毎日。

 それゆえ、筆者は異常なまでにトラックで得意先に行くことが好きになっていた。

◆中小零細の「世代交代」に現状維持はありえない

 それでも周囲には、親子で方針が違うところを見せないように努めなければならない。現場で働く従業員に、こういった意見の食い違いや言い合いを見せることは、彼らの士気を下げるだけだからである。

 規模も業種も全く違うが、数年前、某大手家具販売店で起きた騒動がいい例だろう。親子間での経営方針の違いは、必ずや従業員を巻き込む。その家具販売店の騒動があった頃には父の工場はすでになくなっていたが、筆者は他人事のようには思えなかったと同時に、あの娘さんの意志の強さには、いい意味でも悪い意味でも驚かされた。

 中小零細企業での後継者問題には、親子親戚間でなくとも、ほとんどの場合に「世代交代」が伴う。企業形態によっては、2世代分の開きがあることも少なくない。さすれば、「経験」と「時代の流れ」にズレが生じやすくなり、経営の失速に直結する問題に繋がりかねない。

 若い世代に継承すべき企業の伝統や風習はもちろんあるところだが、若い世代の新しい風を積極的に取り入れ、社内の新陳代謝を促さなければ、時代の流れに取り残され、あっという間に廃れていく。「世代交代」では、いい意味でも悪い意味でも、「現状維持」という現象はなり得ないのだ。

 父の工場は、この他にも様々な要因が絡み合い、結局廃業の道を選んでしまったが、好業績、独自技術が伴う事業には、「売却」という選択肢もあるし、現場の優秀な社員を社長に昇格させる方法もある。これらの道も、決して一筋縄ではいかないが、早い段階での準備と対策によって、次世代につながる企業技術も増えるはずだ。

 後継者の確保ができずに廃業する会社は、毎年約7万社にも及ぶ。日本の技術力の底上げが求められている中、引き継げずに消えてゆく技術がこれほど存在するのは、あまりにもったいない。

<文・橋本愛喜>

ハーバー・ビジネス・オンライン