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【イタリア長文分析WEBメディアの徹底考察コラム】戦術主義ではなく個の解放。アンチェロッティ流のバイエルン

7/19(水) 19:25配信

footballista

指揮を執った3年の間に次々と新しい戦術を考案し実践した発明家グアルディオラから、スター選手たちのエゴを掌握しチームへと昇華させるマネージメントでは他の追随を許さないアンチェロッティへ。同じ名将でも対照的なキャラクターを持つ指揮官が就任した昨シーズンのバイエルンは、その戦いぶりを大きく変貌させた。

掲載するコンテンツはどれも長文ばかり、良質かつ深堀りされた分析で注目を集めるイタリアの新興WEBメディア『ウルティモ・ウオモ』の分析レポート(4月3日公開)を特別掲載。来たる新シーズンを前に、昨季のチームのメカニズムをおさらいしておこう。

※本稿内のデータはすべて16-17ブンデスリーガ第26節終了時点


文 フラビオ・フージ
翻訳 片野道郎


 あり得ない大逆転劇を演じ、舞台の中央でまばゆいスポットライトを浴びたのはバルセロナだった。しかし、16-17シーズンのCLラウンド16で見せた絶対的なパフォーマンスという点において、最も強烈な印象を残したのはメッシとその仲間たちではなかった。2試合続けて5-1というスコアでアーセナルを文字通り叩き潰したバイエルンは、ビッグイアーを狙うライバルたちに決して無視できない強いメッセージを送った。準々決勝の対戦相手に決まったレアル・マドリーのエミリオ・ブトラゲーニョ組織統括ディレクターの「最悪の相手と当たってしまった」というコメントは象徴的だ。

 ブンデスリーガにおいては、もはや語るべきことは何もない。ここまでわずか1敗(5大リーグでは唯一)という結果だけでなく、得点、失点ともにリーグ首位。唯一その足下を脅かし得るかと思われたRBライプツィヒとの勝ち点差も13ポイントまで広がった。DFBポカールで10年連続でベスト8進出というのも、前代未聞の記録だ。ユップ・ハインケスが築きペップ・グアルディオラが引き継いだドイツの覇権を、カルロ・アンチェロッティがさらに強固にしたことに疑いの余地はないだろう。


グアルディオラからアンチェロッティへの「トランジション」


 バイエルンに対する周囲の期待値は極めて高い。グアルディオラの3年間がそうだったように、シーズンの成否はもっぱらCLの結果によって評価されることになるだろう。もしそうだとすると、ここまでの歩みは昨シーズンまでとまったく変わらない繰り返しであり、アンチェロッティが何を変え、このチームのアイデンティティに新たな何かをもたらしたのかを理解するのは簡単ではない。彼がチームに大きなインパクトを与え、前任者とは明らかに違う方向に舵を切ったのは明白であるにもかかわらずだ。

 シーズンの初戦となったドルトムントとのドイツスーパーカップにおいてすでに、バイエルンのプレースタイルに現れた変化は明らかだった。シーズン序盤、アンチェロッティはグアルディオラが好んで使った[4-3-3]を採用したが、スローなリズムで落ち着いて試合をコントロールするというハインケス時代からの特徴は保ちつつも、戦術的な基盤であったフエゴ・デ・ポジシオン(ポジショナルプレー)のコンセプトは引き継がなかった。

 しかしこのシーズン初戦、バイエルンは攻撃を組み立てるのに苦労しており、ピッチ上のポジショニングも明らかに効果的ではなかった。攻撃は中央よりもサイドを経由する方がずっと多く、古典的なSBとして振る舞ったラーム、アラバは、中央に絞って中盤をサポートしようとする本能を抑圧しているように見えた。人に基準点を置いたプレッシングのやり方も、明らかにグアルディオラのそれとは異なるものだった。

 週を重ねるにつれて、前任者のように大胆な実験を試みたわけではないにもかかわらず、アンチェロッティは自らのサッカー哲学に合わせた調整をチームに加え、バイエルンを自分の色に染めていった。

 イタリア、イングランド、フランス、スペインでタイトルを勝ち獲ったアンチェロッティほどの監督であっても、ドイツサッカーがもたらす困難に直面しないわけにはいかなかった。優勝を逃した2006年のW杯ドイツ大会を受けての抜本的な刷新は、ブンデスリーガの戦術レベルをヨーロッパのトップレベルまで引き上げた。クロップ、ロジャー・シュミット、トゥヘルはヨーロッパでもトップレベルの監督として認められており、グアルディオラの参戦はブンデスリーガで戦うチームのサッカーに深い影響を及ぼした。

 グアルディオラがバイエルンを率いた3年間の重要性は、おそらく過小評価されている。CLを制覇できなかったことに目が行って、見過ごされてしまったのかもしれない。グアルディオラが毎週のように打ち出した新機軸は、対戦する監督たちをコンフォートゾーンから引きずり出し、新たな対応策を見出すための学習を強いた。

 それゆえアンチェロッティも、思った以上に複雑な状況に直面しなければならなかった。皮肉な話だが、ブンデスリーガで対戦したチームの多くは、アーセナルよりもずっとややこしい相手だったのだ。

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最終更新:7/19(水) 19:25
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