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ジェーン・オースティンが10ポンド紙幣に 引用された『高慢と偏見』の一節が炎上

7/19(水) 17:18配信

エスクァイア

英国で最も親しまれている作家の1人、ジェーン・オースティンの肖像画が印刷された10ポンド紙幣がこの秋から流通する。

 イングランド銀行は完成した新10ポンド紙幣をお披露目したが、予想に反して大いに不興を買ってしまっているようだ。原因は、紙幣の右下に引用されたオースティンの代表作『高慢と偏見』の一節にある。

「I declare after all that there is no enjoyment like reading!」

「読書以上の楽しみなんて、どこにもないもの!」(小山太一訳)という意味である。ここだけ読めば何の問題もないように思われるが、前後の文脈を合わせてみれば話はまったく変わってくるのだ。

 この台詞は、主人公であるエリザベス・ベネットの近所に引っ越してきた富豪、ビングリーの妹が発したもの。ビングリー家は商売によって財を成したため、この家の女性たちは自分たちが名家の出身であるかのように思い込んでいる節がある。ロンドン随一の寄宿学校で教育を受けたが、それも上流階級の人々とスムーズに付き合うためだ。主人公のエリザベスは、最初からこの姉妹の本性を「高慢でうぬぼれた女たち」と見抜いていた。

 問題の台詞は、ビングリー家でのディナーの後に登場する。ミス・ビングリーは、兄の親友であるダーシーに好意を寄せていたが、ダーシーは彼女にまったく興味がない。ダーシーが読んでいる本の第2巻だからという理由だけで手に取った本を話のタネにして、ダーシーとなんとか会話をしようとするも、彼は質問に答えるだけで本から目を離そうともしない。そんな意中の相手にしびれを切らし、本に興味があるふりをすることに疲れたミス・ビングリーは、ついにこう言い放つのだ。

「こんなふうに夕方を過ごすのって、ほんとに楽しいわ! 読書以上の楽しみなんて、どこにもないもの!」(小山太一訳)

 要するに、“嫌味”なのだ。部屋にいる面々に無視されたミス・ビングリーは、この後本を投げ捨てている。

 読書を愛するどころか、冒涜するような一節をなぜわざわざ引用したのか、と憤る英国民がソーシャルメディアで次々と声を上げている。

「イングランド銀行の担当者は、本当に『高慢と偏見』を読んだのか?」
「最も不快な登場人物の1人が発した皮肉を引用するとは、まさに皮肉としか言い様がない」

『高慢と偏見』は、英国で高い教育を受ける者は国語の教科書のようにみっちりたたき込まれるテクストだ。イングランド銀行に勤めるようなエリートであれば、この名台詞を覚えていないはずがない。皮肉をこめた視線で観察対象を眺める“風刺の精神”が英国的気質であるとするなら、この引用にはどんな意味が込められているのだろうか。

 新10ポンド紙幣は、オースティンの没後200年を記念して発行される。真の意味に思いをめぐらせながら、新紙幣の登場を待ちたいものだ。

最終更新:7/20(木) 15:48
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