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城後寿が愛される理由。3度のJ2降格もアビスパ一筋13年…背番号10に流れる青き血

7/19(水) 14:56配信

フットボールチャンネル

 サッカー界において「バンディエラ」として愛される選手は数えるほどしかいない。様々なことが日々移り変わる世界で、同じところに留まることの難しさは誰もが理解するところだろう。アビスパ福岡で10番を背負う城後寿は、高卒プロ入りから13年間にわたって同じクラブでプレーを続けている稀有な選手の1人だ。上位クラブからオファーを受けてもなびかず、チームが降格しても離れず、なぜ福岡に留まり続け、ファンに愛されているのか。その理由に迫った。(取材・文:舩木渉)

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●アビスパ=城後。クラブの象徴となった背番号10

 日々あらゆる物事が動き、変化していくサッカー界において、10年以上の長きにわたって同じ場所でプレーし続けることは簡単ではない。それはもちろん日本でも例外ではなく、ずっと変わらない環境を維持する難しさは誰もが理解しているところだろう。

 そんな世界だが、ごく稀に例外も存在する。先ごろ現役引退を表明したフランチェスコ・トッティは、プロ選手としてデビューしてからの25年間ローマというビッグクラブから一度も出ることはなかった。

 彼のように移籍することなくひとつのクラブで長く活躍を続ける(続けた)選手のことを、イタリアでは「バンディエラ」と呼ぶ。英語では「フランチャイズ・プレーヤー」と表わされ、そういった選手はクラブやリーグの象徴として称賛される。

 日本のJリーグにも、トッティやかつてのパオロ・マルディーニのように「バンディエラ」としてファンから愛される選手がいる。アビスパ福岡の10番を背負う、城後寿はその1人だろう。

 国見高校時代に全国高校サッカー選手権優勝やインターハイ連覇を経験した城後は、2005年に地元・福岡県に本拠地を置くアビスパ福岡に入団して以降、現在までレンタル移籍などを一度も経験せずにアビスパ一筋を貫いている。

 プロ4年目の2008年から10番を任され、昨季までの12年間で3度のJ2降格を経験。何度もJ1の上位クラブからオファーを受けながら、すべて断ってきた。31歳になった現在は4度目のJ1昇格を目指して戦っている。

 そんな城後をファンはどう思っているのだろうか。本拠地レベルファイブスタジアムの周辺で取材を進めていると、6歳になる長男と3歳の次男とともに3人揃って背番号10のユニフォームを着てアビスパの応援にやってきたある40代の男性ファンはこう言った。

「象徴というか、なくてはならない存在かな。『アビスパ=城後』じゃないかと思います。アビスパが潰れかけた時も残ってくれたので、城後選手を一番応援したい」

●雷鳴轟く中で…城後が決めた伝説のゴール

 他のファンに話を聞いても、必ずと言っていいほど「象徴」「シンボル」といった表現で城後を語る。チームの立ち上げ時からファンだという女性は「アビスパ=城後。レジェンドです。篠田もレジェンドだけど、レベルが違う。もう青い血が流れていますよ」と語る。

「篠田」とは、現在FC東京の監督を務める篠田善之のこと。まだアビスパが福岡ブルックスとして旧JFLを戦っていた1995年から2004年の現役引退までプレーし、2008年7月から2011年8月までアビスパの監督も務めたクラブの功労者を、現役選手にしてすでに超えているという。

 城後は世代を超えてファンを魅了する。小学生の頃から15年近くアビスパを応援し続けている20代のファンの口からは「苦しい時にたくさんの主力選手が出ていったんですけど、城後だけは残ってくれて、チーム愛を感じます。城後はアビスパそのものじゃないですか? 本当にチームの象徴で、いなくなった時のことは考えたくないですね。チームがなくなるのと同じくらい、そんな選手だと思います」と背番号10への愛がよどみなくあふれ出た。

 20人近いファンに話を聞いていくと、「大事な試合でゴールを決めてくれたり、印象的な試合のゴールがたくさんある」という言葉が頻繁に聞かれた。そして最も印象に残っているエピソードを尋ねると、その大半から返ってきたのが2010年9月12日に行われたJ2第25節、大雨が降り、雷が鳴る中で行われたジェフユナイテッド千葉戦でのゴールだった。

 試合終盤の88分、自陣でボールを奪った中町公祐(現横浜F・マリノス)がカウンターを仕掛けると、右サイドを駆け上がった城後に絶妙なスルーパスを通す。ペナルティエリア角でボールを受けた背番号10は、左足に持ち替えてミドルシュート。カーブのかかったボールはきれいな弧を描いてゴールネットに吸い込まれた。城後は一目散にファンの元へと駆け寄る。まるでスタジアムが爆発したような大きなエネルギーが生まれた。

●「今までと何も変えたつもりもないですし、変わったつもりもない」(城後)

 この1点で千葉に逆転勝利したアビスパは、勝ち点でも千葉を上回ってJ1昇格圏内の3位に浮上。第10節終了時点で14位だったが徐々に盛り返し、第16節で4位まで順位を上げると、この千葉戦で3位を確保し、そのままの勢いで2試合を残した時点でJ1昇格を確定させた。

 千葉はアビスパに敗れたことで失速し、最後まで盛り返せないまま4位フィニッシュ。まさに城後のゴールがすべての流れを変えた。前年に負った左膝前十字靱帯損傷からの完全復活を印象づけた雷の中での逆転ゴールは、伝説の1点としてアビスパのファンの心に刻まれ、「イナズマ城後」として語り継がれているという。

 他にも今季のJ2第19節、名古屋グランパス戦で決めた逆転ゴールも多くのファンの心を揺さぶっていた。途中出場から4分後に決めた勝利を手繰り寄せる1点は、まさに城後の生き様を示したゴールだった。

 しかし、今季は出場機会の確保に苦しんでいるのも事実。リーグ戦のスタメン出場は第23節終了時点で1試合しかなく、ベンチに入れないこともある。アビスパ入団以降、もっとも苦しい時を過ごしていると言っていいだろう。

 ただ城後自身、現状をネガティヴに捉えているわけではない。

「今までと何も変えたつもりもないですし、変わったつもりもない。ただこれを続けていって、その中で結果を残せば必ずチャンスはくると思う。スタメンじゃなくても途中から出てもやるべきことはたくさんあるし、その中で何かインパクトの残るプレーをすればスタメンも見えてくると思う。今はやるべきことをしっかりやって、またチャンスをもらった時に、そのチャンスをしっかり生かせればなと思います」

 アビスパで数々の苦難を乗り越えてきた“キング”に焦りはない。

「僕だけじゃなくて能力があって出られない選手もいっぱいいますし、その中でいい競争が生まれているからこそ、もしかしたらこういう位置(取材時点で首位)にいると思う。先発で出ない選手もしっかりトレーニングの中から出ている選手にプレッシャーをかけられるように、今はやれているので、これからも続けていきたいと思います」

●ファンからの大きな期待。城後はアビスパを再びJ1へ導くか

 ファンからの城後に対する期待は、これまで同様非常に大きい。それと同時に、たとえベンチスタートでも「出場すれば必ず何かやってくれる」と信じている。

「終盤で昇格争いになった時に決定的な仕事を期待していますし、してくれると思います」

「この前の名古屋戦みたいに、途中から出てきてゴールを決めた時は涙が出そうになりました。(期待するのは)やっぱりゴールです。彼がゴールを決めて勝つというのが一番うれしい瞬間です」

「もっと出て欲しいのは本心としてありますけど、出た時にはいつも点をとっていて、とにかく得点の嗅覚はすごいと思います。城後が出たら何かしてくれると思います」

「やっぱり最後まで力を抜かずに走って、常にゴールを求めていくところが、そういう感情の表し方が見ていて感動します。スタメンで出ればもちろんいいですけど、後半からでもゴールに絡む活躍を期待しています」

「城後が点を取るとやっぱり会場全体が盛り上がる。他の選手とは全然違います。どんどん点を取ってほしい」

「試合に出れば必ず何かやってくれる。毎試合楽しみにしています。J1昇格の経験が3回あるので、その経験を生かして勝負どころでチームを引っ張ってもらいたいと思います」

 ここで紹介したのは取材で得たファンの声の一部に過ぎないが、とにかく城後のゴールを誰もが待っている。そう感じさせてくれるのに十分なほど、その存在はアビスパにとって大きなものになっている。

 万人を魅了する華麗さや派手なプレーはなくとも、重要な場面でゴールを奪う勝負強さや、どんな時も最後まで諦めないひたむきな姿勢、チームをまとめるリーダーシップ…あらゆる側面で城後はアビスパの「象徴」として愛されている。

「やっぱりゴールという形が一番わかりやすいとは思いますけど、いつもハードワークするところも僕の武器というか、ストロングポイントだと思うので、そういうプレーをしっかり継続しつつ、チャンスがあればゴールを決めてみなさんを喜ばせるようなプレーができればなと思います」

 昇格争いが本格化する後半戦に向けて、城後の決意は固い。ここまではなかなか出場時間を伸ばせなかったが、大事な時に重要なゴールを決めてきたのはいつも城後だったことを、誰もが知っている。だからこそ1年でのJ1復帰を実現するため、アビスパの“キング”の力が必要な時がやってくるのは間違いない。そう確信している。

(取材・文:舩木渉)

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