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【連載】蹴球百景 vol.21「サッカーを憎み、利用しようとする人々」

7/19(水) 6:00配信

SOCCER DIGEST Web

報復は最も愚かな行為である。

「サッカーの応援しているだけのくせに、なんかやった気になってるのムカつく。他人に自分の人生乗っけてんじゃねえよ。」
 
 7月16日、某女性議員のこのツイートが大炎上した件は、多くのサッカーファンには周知のことだろう。個人的な印象を述べるなら、多少なりともパブリックイメージを大切にしなければならない議員が、SNS上で「ムカつく」だの「じゃねえよ」などという品のない言葉を書き込む神経には、いささかの驚きを禁じ得なかった。その一方で、サッカーファンやサポーターの心情がまったく理解できない人って、一定数いるんだなと改めて思った。
 
 われわれのプライベートな交友関係というものは、どうしてもサッカー方面に偏りがちである(私自身もそうだ)。普段、職場ではなかなかできないサッカー談義や、いつも応援しているクラブの話題を気の置けない仲間たちと語り合うのは、もちろん楽しい。あるいは満員のスタジアムのなか、ゴール裏一丸となって愛するクラブや選手のコールをしていると、まるでそこが世界の中心であるような錯覚を受けることもままある。ある意味、それこそがフットボール観戦の醍醐味であり、魅了される理由であると言えよう。
 
 しかし、である。仲間とのフットボール談義や、サポーターとしての活動というものは、私たちの生活のなかのごくごく一部でしかない。そもそもフットボールネーションとは言い難いわが国において、サッカーファンのコミュニティーというものは実のところ少数派、マイノリティーでしかないのである。日常生活の大部分を過ごしている職場を見渡してみれば、当然ながらサッカーに対して無関心や冷淡な人はいくらでもいるだろう。あるいは憎しみの感情を抱いている人だっているかもしれない。
 
 今回の女性議員の場合、少なくとも「サッカーなんかどうでもいい」人であり、その後の言動を追跡してみると「何とかして自分を注目させたい」という自己承認欲求が極めて高い人である可能性が高い。要するに特定のグループを完全否定するツイートで炎上状態を作り、敵対関係を先鋭化させることで自らを目立たせるという「戦略」。しかもその後、殺害予告を思わせるメッセージが事務所に届いたことで、この女性議員は「被害者」となることのみならず、サッカーファンのイメージを悪くすることにも成功している。
 
 はっきり言って、サッカーファンやサポーターにとっては、災難以外の何ものでもない。今回の件で教訓を得るとするならば、この世界には私たちが大切にするものを憎んだり、利用しようとしたりする人々が確実に存在する、ということである。もちろん新規の仲間を増やしていくことは大事だが、そういう見込みがまったくない人たちにサッカーや応援することの素晴らしさを解くのは、異教徒を改宗させることと同じくらい難しく意味のないことだと思う。なればこそ、こういう手合いから挑発されても激高することなく、華麗にスルーする冷静さを身につけたいものだ。報復が最も愚かな行為であることは、サッカーファンなら言わずもがなであろう。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 

最終更新:7/19(水) 6:00
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