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ドイツのバイエルン州でもブルカ禁止に その目論見は?

7/19(水) 18:45配信

ニューズウィーク日本版

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欧州全体が、「ニカブ」や「ブルカ」など、一部のイスラム教徒の女性の頭部や体の大部分または全体を覆うベールの着用を禁じる方向に動いている。総称して「ブルカ禁止」や「ブルカ討論」などと言及されることが多い。

フランスやオーストリアなどですでに特定の公共施設でのこれらのベール着用が禁止されているほか、審議中または地域的に施行されている国もある。今月11日には、欧州人権裁判所がベルギーでこれを禁ずる法律を支持する判断を下した。

南ドイツのバイエルン州でも来る8月1日より、公務員をはじめ、大学、幼稚園、あるいは選挙会場などの多くの公共施設で、顔を覆うベールの着用が禁止となる。ドイツで公式に禁止となるのは同州が第一号だ。

政治的駆け引き?

根拠としては、社会にとって人々がお互いの顔を見ることができるのは重要で、顔を向かい合わせることは「我々の対人関係の共存の基礎をなし、また我々の社会と自由な民主的秩序の基盤である」ことがあげられているが、これは今年初めの汎ヨーロッパ保守政党である欧州人民党の見解を引き継ぐものだ。

だが、2年前にはドイツの憲法裁判所が、教員の頭部ベールの着用を一律に禁ずるノルトライン=ヴェストファーレン州の法律を無効としているなど、宗教的寛容を目指す風潮があった。なぜ今、バイエルンでこの動きなのか。ニューズウィーク米国版によると、9月に行われるドイツ総選挙と無関係ではないようだ。

バイエルン州を率いる保守、中道右派のキリスト教社会同盟(CSU)と、その姉妹政党であるアンゲラ・メルケルのドイツキリスト教民主同盟(CDU)は、極右政党であるドイツのための選択肢(AfD)の動きを牽制するために、 保守的なバイエルン州での妥協案導入に実験的に踏み切ったのではないかと分析している。

AfDは早くから移民排斥や、衣服だけではなく宗教的建築(たとえば、イスラム教宗教施設の、ミナレットと呼ばれる尖塔など)のような象徴の禁止を主張している。AfDにはもともと他国の極右政党ほどの勢いはなかったが、今回CDUとCSUが安全、移民、イスラム問題などで右派の主張に歩み寄ることにより、AfDの支持率は昨年15%ほどだったのが現在は10%以下に落ち込んでいる。

「問題ではないことを問題に」

しかしながら、南ドイツ新聞やツァイト誌などは今回の措置に、「存在しない問題を問題にしている」と懐疑的な見解を示している。すなわち、火のないところに煙を立てているだけということだ。



バイエルン州の州都ミュンヘンに本社を置く南ドイツ新聞は、ベールで顔を隠した女性をたくさん見かけるとすれば「夏のマキシミリアン通りだけだ」と揶揄している。マキシミリアン通りはミュンヘンの高級ショッピング街で、おそらく旅行者ということだろう。

2016年の時点でバイエルン州のイスラム教徒は人口のわずか4%とされ、そのほとんどはトルコ人だ。すでに何世代もドイツで暮らしているトルコ人たちはせいぜい髪をスカーフで覆うくらいで、まったく何もつけない女性も多い。

南ドイツ新聞はまた、 顔を隠すことはコミュニケーションの障害になるというCSUのヨアヒム・ヘルマン州内務大臣の意見を肯定し、また顔を隠すことが、とくに女性たちが強制されている場合は賛成できないとしながらも、「禁止」という政治的行為は不必要だとしている。

また、「バイエルンを最も安全な州のように思わせ、CSUを最も強力な党にするために」州政府はこのような不毛な議論も厭わないと分析。一方ツァイトも、「CSUは人権保護に真剣に取り組みながらもそれと相反する行為をする唯一の党だ」と指摘している。

バイエルン州での今回のブルカ禁止はやはり、実際的な影響を狙ってのものではないようだ。ドイツ全土でも、ブルカ着用者は通説で300人と言われている(ただし、この説にはあまり根拠がないことをツァイトが検証している)。結局、禁止によって目に見える大きな変化があるとは考えづらく、象徴的な意味しかないように思われる。また、憲法で宗教の自由が保障されているので、フランスのように禁止が連邦レベルで起こることもなさそうだ。

フランスでは2011年より特定の公共施設でのブルカ着用が禁止されているが、結果は統合どころか、ムスリムに疎外感を与え孤立させてしまっていると、キングス・カレッジ・ロンドンの政治思想学者アラン・コーフィーはニューズウィーク米国版に語っている。

モーゲンスタン陽子

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