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【書評】自分の死を偽装することは可能かを検証する書

7/20(木) 16:00配信

NEWS ポストセブン

【書評】『偽装死で別の人生を生きる』/エリザベス・グリーンウッド著/赤根洋子訳/文藝春秋/本体1800円+税

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 リーマンショックが起こった2008年、27歳だった著者(アメリカの“ラストベルト”出身の白人女性)は、多額の学生ローンを抱えて絶望的になっていた。そのとき、友人が口にした「死亡偽装」というアイデアに取り憑かれる。自分が死んだことにして別の人間になりすまし、借金から逃れられないか? 著者はその後数年間にわたり、国民総背番号制が徹底され、街中のカメラで監視され、ネット上に足跡が残ってしまうこの21世紀のデジタル管理時代に、果たして死亡偽装は可能なのか、可能だとしたらどのような方法によってなのかを徹底的に調べる。

 主な取材対象は失踪希望者を手助けする有名な「失踪請負人」、生命保険会社から依頼され、死亡保険金の請求のうち死亡偽装が疑われるケースについて調査する敏腕「偽装摘発請負人」、アメリカとイギリスの有名な死亡偽装事件の当事者(結局は失敗して逮捕された者たち)、親に死亡偽装され、心の傷を負った子供たちなど。それにとどまらず、著者はなんと、死亡偽装の主要な舞台となっているフィリピンに飛び、自分の死亡証明書の作成を依頼し、入手に成功してしまうのだ。

 著者の調査、取材によって次々と興味深い事実が明らかになる。

 死亡偽装の動機は金が圧倒的に多く、次いで暴力、稀に愛。借金から逃れたい、パートナーの暴力から逃れたい、別のパートナーと人生を歩みたい、というわけだ。死亡偽装を試みるのは大半が男性だ(男は夢想し、女は現実を受け入れる)。偽装の99%は遺体が見つからないこともあり得る水難事故。アメリカでは死亡偽装を試みて逮捕される人が年間20人以上いる(もちろん成功者の数は不明だ)。あの「9・11」のとき、後に確定した犠牲者の数は2801人だったが、事件直後には6千件以上の捜索願が出され、内44件は生きている人や、そもそも存在しない人物のものだった。

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