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挑戦的であり続けるイノセントグレイ最新作『FLOWERS冬篇』はノンプロモーション…… その真意を探る

7/20(木) 13:00配信

おたぽる

 『殻ノ少女』シリーズなど、昭和を舞台にした猟奇ミステリー作品で圧倒的人気を誇り、美少女ゲーム業界で孤高のブランドとして君臨しているInnocent Grey。そのInnocent Greyが放った『FLOWERS』シリーズは、まさかの全年齢、かつジャンルは百合というそれまでの歴史を覆すものだった。第一作目の『FLOWERS春篇』(以下、春篇)のリリースから丸3年が経ち、いよいよ2017年9月15日の冬篇をもって完結する。

 インタビュー前編では『FLOWERS』の過去作をスギナミキ氏(※杉菜水姫氏の『FLOWERS』における名義)に振り返ってもらい、またビジネス面についてのお話も聞かせてもらった。後編では、『FLOWERS 冬篇』と、近年の美少女ゲーム業界の状況、そして今後のInnocent Greyについて語ってもらった。

(前回の続きより)

――そろそろ冬篇のお話を聞かせてもらえればと思うのですが、公式でも発表されている通り、夏・秋と登場しなかった匂坂マユリ(以下、マユリ)は登場するということでいいのですね。

スギナミキ(以下、スギ):まちがいありません。100%登場します。これは各方面で言っておりますが、中々信じてもらえません(笑) 今までの“業”のせいでしょうか。

 でも冬篇で登場しないのはそれこそ春篇のあのエンディングが無意味になってしまいますので信じていただくしかありません。もちろん手足もありますし、精神異常とかもありませんのでご安心ください。

――春篇のエンディングへの反響を受けて、マユリを夏・秋と登場させようとは考えたことはなかったのですか。

スギ:ありません。ただ、最初にもお話ししたように冬篇を迎えるまでに、ここまで時間がかかることを想定していなかったので、マユリの声を担当していただいた岡本理絵さんにはずいぶんと待たせてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。ご本人もここまで待つことになるとは思わなかったとおっしゃられていました。

 でも長い間、待っていただいた分、冬篇ではその想いが重なったすばらしい演技を見せてくれています。その演技を目の当たりにしたとき、夏・秋と中途半端に登場させなくて正解だったと改めて感じました。

――ずばり冬篇の見どころはどこでしょうか。

スギ:蘇芳とマユリの再会につきるのではないでしょうか。どうやってふたりが再会し、ふたりの関係がどうなるのか、私自身かなり納得のいく展開を用意することができましたが、見どころというよりもここが冬篇での一番の課題でした。

 最初に考えていたのは物語の後半にだけ登場するという展開でしたが、これだけだとただの感動系の佳いお話になってしまうと思いました。長期間待たせてしまった岡本さんにも申し訳ないですし、プロット自体を見直すことにしたのです。苦労の甲斐あってある程度、序盤から登場させつつも、とても切ない再会という理想的な状況を作り出すことができました。ここでの名塚さん(※白羽蘇芳役・名塚佳織氏)と岡本さんの演技は必聴です。

――春から秋にかけて全てをプレイしてきたユーザーにとっては最も気になるところでしょうね。夏と秋ではEXTRAシナリオで蘇芳の苦しみを知っているわけですし。ほとんどのユーザーが蘇芳とマユリが結ばれてハッピーエンドのような流れを望んでいますよ。

スギ:……そうでしょうね。分かります。

――ちがうのですか? まさか、イノグレらしく誰か死んだりするとか。

スギ:以前のインタビューでもお話したかもしれませんが、メインキャラクターは誰も死にません。

 ラストは最高の幸せを用意しています。冬篇のメインキャスト3人にも、「あの終わりで良かった」「あの終わりしかない」と納得していただけています。私なりのハッピーエンドと言えばいいのでしょうかね。少なくともメインキャスト3名のお墨付きですから、酷いことになってないことは確かです(笑)

――私なりの~というのがかなりひっかかります。御社のことだから、どんなことが起こるか、最後まで油断できませんから。

スギ:これ以上は言えません。実は、そもそも冬篇についての情報は、ほぼ流さないことになっているのです。なので、いまここで話す以上の情報は、今後一切流しません。

――えっ、どういうことですか。公式サイトでまだ更新されていないページも多いですよね。

スギ:グラフィックのページとかですね。あれは、更新がされていないのではなく、現時点で完成しているので、そもそもアクセスできません。更新されるとしたら発売以降になるでしょう。

 CG1枚から想像できてしまうことって、とても多いじゃないですか。だから今回は敢えて見てほしくないのです。できる限りまっさらな状態でユーザーの皆さんには冬篇を楽しんでいただきたいのです。ただ、全く出していないというわけではなく、CMムービーやパンフレットでは一部の当たり障りのない素材は使用しています。

――キャラクター紹介ページで八代譲葉と小御門ネリネが白黒になっているのもそのせいですか。

スギ:彼女たちが色を失っているのは、秋篇のエンディングを踏まえているからです。

――では彼女たちは冬篇には登場しないと。

スギ:そこは明言できません。そういった部分も含めて冬篇では本筋の展開がわかるような情報は出さないように気をつけています。うっかりしているとしゃべってしまいそうになりますが(笑)

――CGまでも公開しないとは、かなり挑戦的なプロモーションですね。

スギ:挑戦的なプロモーションというより、ほとんどノンプロモーションになります。だから全国キャラバンのトークショーでも、冬篇については話せることがなくて大変でした。幸いゲストがいる会場ではゲストに特化した話題などで十分に盛り上げることができたのでとても助かりました。

――なぜそうしようと考えたのですか。

スギ:最近は、ゲームにしてもアニメにしても、様々なエンターテインメントにおいて事前に情報を出し過ぎる傾向が強いと感じております。本当にそこまで公開してしまう必要性ってあるのか、と。そういう意味では情報の発信源と受信する側のバランスがとても大切だと感じています。

 『FLOWERS』に関していえば、秋篇までプレイしていただいた段階で全てのプロモーションは完了しております。だから、ここまで追いかけてくれたファンの皆さんには、余計な知識は持たず、純粋な気持ちで最終季を迎えていただきたいのです。だからノンプロモーションにしようと考えたのです。

 それとそこまで話を聞いて「おや?」と思われるかもしれませんが、公開が迫っているOPムービーについても少しだけお話をします。詳しく話してしまうと興ざめになってしまいますので言葉を選んで云わせて頂くと、自分自身でも今までにない“挑戦的なもの”になっております。自分の考えるある意味、理想的な表現ができたと思いますので楽しみにしていただきたいです。協力していただいたムービー制作の癸氏(※癸乙夜氏)にも感謝したいです。

――なるほど。では話を変えましょう。ここ最近の美少女ゲーム業界の状況はいかがでしょうか。3年前とさほど変わりませんか。

スギ:もう何年も業界が傾いているとささやかれてきましたが、今年になって仲の良かったメーカーがいくつか撤退したりして、私自身も相当の危機感を覚えています。もう他人事ではすまされない状況です。

 業界を見渡しても、売上がかなり落ちています。1万本を超える作品なんてほぼないんじゃないでしょうか。

 それに地方に巡業に行くと、お店によっては売り場の1割が新品、残りの9割が中古だったりするのです。その状況を目の当たりにすると、業界全体が中古じゃないと回らなくなってしまっていると強く感じます。

――美少女ゲーム業界の功罪として、よく特典商法があげられますが、御社はやらないですよね。

スギ:前回のインタビューでも少しお話したかもしれませんが、弊社は『殻ノ少女』のときにやめました。もう10年くらい前の話ですね。その当時はかなり勇気のいる決断でした。でも、特典を付けなくても売れる本数に大きな変化はなかったのです。ブランドとして、早いうちに特典商法に頼らないシステムを作れたのは成功でした。

 その分、作品の内容や、パッケージの装丁などは自分たちは勿論、ユーザーの皆様にも納得して頂ける商品を提供しなければなりません。これは非常にプレッシャーでしたが、ブランドとして生き残るためにも必要なプロセスでした。

――改めてお聞きしますが、特典を付けないことでどんなメリットが生まれましたか。

スギ:特典がなく、パッケージ自体に付加価値を付けることでゲームを中古に出回る数を抑えることができます。中古が出ても数が少ないので価格は基本的に下がりません。そうなると、新品を購入してくれる率が高まりますし、発売の金土日に勝負をかける必要もありません。いつ買ってもいいので、継続的に数字が動くことにつながります。

――最近では日本市場があまりにも厳しいので、海外市場を開拓しているブランドも多いですよね。『FLOWERS』も海外でダウンロード購入できるかと思うのですが、反応はいかがでしょうか。

スギ:『FLOWERS』に関して言えば、予想以上の反響があったとのことです。海外でも「レズ」とは異なるものとして「百合」というジャンルが認識されつつあるようで、まだ春篇のみのリリースですが、夏篇以降も展開していきます。

――海外には美少女ゲームの市場があるとお考えですか。

スギ:そうですね。現時点では「ある」と考えています。特にアジア圏では勢いを感じております。ここ数年でイベントに参加される海外のファンが増えました。中国や台湾などが多く、ほかにもオーストラリアなどからも来ていただいております。皆さん本当に百合が大好きなようで、これは本当に嬉しいことです。

――では最後に、冬篇リリース後の予定をお聞かせください。

スギ:まずは『天ノ少女』の制作を急ピッチで進めることです。個人的にも思いれの強い作品ですし、一日でも早くファンの皆さんのもとへお届けしたいと思っています。

 それと、いつか『殻ノ少女HD』のフルボイス版をリリースしたいと考えています。もちろん『天ノ少女』の開発が最優先になりますが。

――『殻ノ少女HD』フルボイス版ですか。まだ先のお話になりそうですが、楽しみですね。

スギ: 弊社は、少人数の開発体制です。コストを考えたら、大きなメーカーでは考えられない体制でしょう。だからとにかく時間がかかってしまいます。しかし、小さい体制だからこそ作品にこだわりをぶつけることもできるのです。

 最初に申し上げた通り、『殻ノ少女』シリーズを待ってくれている皆さんには、待たせてばかりで申し訳ありません。絶対に良いものにするので、もうしばらくお待ちいただければと思います。

 そして冬篇を待って下さっているファンの方々も絶対に後悔させませんので最後の季節までしっかりと追いかけてくださることを切に願います。
(文/構成=Leoneko)

最終更新:7/20(木) 13:00
おたぽる