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帝国主義化するアニメーション映画祭の現在──アヌシー国際アニメーション映画祭

7/20(木) 18:50配信

WIRED.jp

DOMMUNE進出も果たした「ワールドアニメの生態学」第6回は6月に開催されたばかりのアヌシー国際アニメーション映画祭特集。芸術性の重視だけではなくいち早く商業化を進めることで世界で「一強」のアニメーションイヴェントと化した同映画祭は、アニメーション映画祭の歴史を新たなフェーズに進めつつある? ヨーロッパを飛び出しアジア・アメリカ市場へも進出しようとするアヌシー映画祭の歴史を紐解くことで、アニメーション映画祭の「現在」が見えてきた。

【写真でみる】フランス、アヌシー市。毎年6月、世界中のアニメーション関係者がその地に集う。

アニメーション映画祭はなぜ生まれたのか

土居 6月に3週間ほど、ヨーロッパに行ってきました。毎年6月はクロアチアの「ザグレブ国際アニメーション映画祭(以下、ザグレブ映画祭)」とフランスの「アヌシー国際アニメーション映画祭(以下、アヌシー映画祭)」という、歴史的に重要なふたつのアニメーション映画祭が連続して開催されるので、毎年この時期はいつも海外に出ています。そこで今日は「アニメーション映画祭」について話せればと思っています。

ひらの そもそもアニメーション映画祭ってあまり馴染みがないし、一体何なのかということから始めないといけなさそうですね。

土居 アニメーション映画祭は名前の通り、アニメーションだけを専門とする映画祭です。そもそもの始まりは、1956年と58年にカンヌ映画祭のなかで開催された「国際アニメーション週間」で、60年にその部門が独立してアヌシー市に移り、第1回が開かれました。

アヌシー映画祭は世界でいちばん古いアニメーション映画祭です。アニメーションに対する「賞」でいえば、連載の第2回で取り上げたアカデミー賞がいちばん歴史は長いんですが、アニメーションを専門にした「映画祭」だと、アヌシー映画祭がいちばん古い。

ひらの なんでアヌシー市に移動したんですか?

土居 カンヌからの独立先を探すなかで、アヌシー市が手を上げました。映画祭は、自治体にとっては世界に名前を売るチャンスともなるわけで…。アヌシー市はただお金を出すだけではなく、全面的にバックアップをしています。そこがアヌシー映画祭の強みですね。アヌシーって映画祭がなければ知る機会のない町じゃないですか。すごくキレイな湖があって、旧市街地も素敵で、いいところなんですけど。でもいまではアニメーション関係者であれば世界中の誰もが知っている地名になりました。

ひらの アニメーション映画祭ができたときは、長編アニメーションがメインだったんですか?

土居 逆ですね。短編がメインです。アカデミー賞の長編アニメーション部門が始まったのが2000年代になってからという事実が示すように、長編のアニメーションが盛んに作られるようになったのは、つい最近のことでしかありませんから。アニメーション映画祭は、アニメーションを「芸術」として評価する場をつくるために生まれました。マーケットでの成功以外の価値基準を設けるための場所です。マーケットに乗りにくい短編アニメーションには、そういう場が必要だった。

ひらの アニメーションは子ども向けっていうイメージもありましたしね。

土居 アニメーションは大人の鑑賞にも耐えうるものなのだ、ということをアピールしたかった。さらには、アニメーションが実写映画のサブジャンルと考えられがちだったのを覆す目的もあった。カンヌから独立したというのがすごく象徴的ですが、アニメーションは独立した芸術形態なのだと主張するわけです。

アニメーション映画祭の誕生には、冷戦時代、共産圏の国営スタジオで盛んにアニメーションがつくられたのも影響していると思います。製作費の回収のことを考えずに、さまざまな手法でアニメーションがつくられるようになった。その突出した作品を評価する場としても、映画祭は機能していました。

アヌシーの次に古い歴史をもつアニメーション映画祭は1972年スタートのザグレブなんですが、そこにも国営スタジオにおけるアニメーションの隆盛という背景があります。当時のユーゴスラビア連邦のなかで、ザグレブ・フィルムでつくられたアニメーションがとても異彩を放っていました。デザイン性の強い風刺的な作風は、「ザグレブ派」と呼ばれるような大きな一派をつくり出したんです。映画祭の歴史の背後には、常に優れたつくり手たちがいるわけですね。

ひらの 社会主義圏のスタジオはどういうアニメーション作品をつくっていたんですか? プロパガンダ的なものでしょうか?

土居 そういう作品もありましたが、基本的には子ども向けの教育・娯楽作品がほとんどです。でも、そういう背景があるからこそ、芸術性の高い作品も生まれました。アニメーションは子ども向けのものだと思われていたから、検閲が厳しくなかったんです。お金も出るし検閲もゆるいので、作家にとってはつくりたいものをつくれるユートピアのような環境ができあがっていた。旧社会主義圏のアニメーションの歴史を眺めると、どこも冷戦時代に「黄金期」を迎えています。

ひらの 自由な空間がつくられていたんですね。

土居 旧社会主義圏の作家のなかには、共産主義の時代のほうがよかったなんて言う人もいるくらいです。資本主義のマーケットの検閲のほうがよっぽど厳しいって(笑)。

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最終更新:7/20(木) 18:50
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