ここから本文です

ECBのドラギ総裁の記者会見-Deliberately kept open

7/21(金) 9:13配信

NRI研究員の時事解説

はじめに

ECBの政策理事会は声明文に残された量的緩和に関する緩和バイアスを維持しただけでなく、ドラギ総裁は記者会見を通じて、6月末の講演を期に市場に広がった「正常化」への見方を修正しようと努めたように見える。しかし、記者会見の背後でのユーロ相場や域内国債の利回りをみる限り、そうした意図は必ずしも成功していないように見える。その理由を考えながら、いつものように記者会見の内容を検討したい。

Sintraへ戻る

実は、今回の記者会見はLiveの画面で見た限り空席が目立ち、質問の総数も12と比較的少なめだったが、それだけに一層、ほとんどの記者がドラギ総裁による6月27日の講演(PortugalのSintraでのCentral Banking Forum)を様々な切り口から取り上げた印象を受けた。

第一に、多くの記者が、今回の記者会見の冒頭説明でドラギ総裁がインフレ目標の達成に向けて強力な金融緩和の維持が必要との点を強調したことを取り上げ、Sintraでのメッセージと整合的でないとの指摘や短期間にトーンを変えることの適切さを問う意見が目立った。これに対しドラギ総裁は、6月の政策理事会以降、Sintraでの講演も今回の政策理事会も一貫したメッセージを送っていると説明し、こうした見方を否定した。

第二に、数名の記者は、6月末以降に実際にユーロ高と域内の長期金利の上昇が生じたことを取り上げ、その評価を問うとともに、今後の正常化においてFRBによるtaper tantrumのような事態を生ずる懸念の有無を質した。

ドラギ総裁は、市場の反応自体にはコメントしないとのスタンスを維持しつつ、ようやく景気拡大がrobustになり、あとはインフレの 回復を待つのみという段階にこぎつけただけに、financial conditionが不必要にタイト化することは望まないとの考え方を強調した。ただ、その際に現在のfinancial conditionはインフレ目標の達成に対して十分supportiveな状況にあるとコメントしたことが、市場の反応を誘発した面もあったように見える。

その上で、ドラギ総裁は、空前の規模の金融緩和であってもスムーズな正常化は可能との自信を示し、予て強調してきた金融政策運営の原則―persistent, patient, prudent―を堅持することが重要との考えを確認した。

第三に、数名の記者は、6月の記者会見やSintraでの講演でドラギ総裁が取り上げた賃金上昇の緩やかさについて、構造要因によるものであれば長期にわたって変化しないのではないかとの疑問を示した。これに対してドラギ総裁は、金融危機の前後で労働市場の構造が変化することは、他の先進諸国と同様に十分起こりうることであると認めた。また、ユーロ圏での具体的な変化として、賃金契約の締結におけるバックワードな要素の重視など、Sintraの講演で議論した事象が生じている可能性を確認した。

しかしドラギ総裁は、こうした要素も景気の拡大が継続する下ではいずれは消滅するとの見方を強調し、従って、インフレ目標の達成に向けたモメンタムは維持されるとの考え方を再度強調した。この辺の議論は、数時間前に黒田総裁が行った説明と概ね同じロジックである。

なお、黒田総裁のロジックとの共通点は他にもあり、ドラギ総裁はSintraの講演で、景気が順調に拡大すれば-インフレ期待や潜在成長率の改善によって-現在の金融緩和の効果が一層強まると指摘しており、今回の記者会見でもそれを確認した。

1/2ページ