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歌人・穂村弘インタビュー 『鳥肌が』が第33回講談社エッセイ賞を受賞

7/21(金) 12:30配信

PHPファミリー

穂村弘さんの『鳥肌が』が、このほど、第33回講談社エッセイ賞を受賞しました。本にまとまる前、『PHPスペシャル』連載時には「この世はこわいものだらけ」とのサブタイトルがついていたように、さまざまな「こわい」を独特のセンサーで感知し、時にユーモアをまじえながら綴られています。そんな『鳥肌が』について、お話をうかがいました。
(取材・文:PHPスペシャル編集部)

怖いものが気づかせてくれる世界がある

穂村「鳥肌って、恐怖を感じたときにも、感動したときにも立ちますよね。恐怖と感動って、実はとてもよく似ている部分がある。共通するのは、未知性です。知らなかった世界を啓いてくれるもの」

――「他人に声をかける」という項では、旅先などで見知らぬ人に声をかけるのがおそろしい、と書かれています。同時に、そうすることへの憧れも感じる、と。
穂村「怖いけれど惹かれるということってあると思うんです。なんだか怖いんだけど、つい見てしまう。単に嫌悪や忌避の対象ではない、魅力としての怖さ。僕は人魚姫よりも雪女のほうに魅力を感じるんだけど、それは雪女のほうが怖いからです。人間を殺せるくらい強いのに、雪女だとばれるといけないとか、雪女に会ったことを話してはいけないというルールがある。
それは、ふだん僕たちの目に見えている価値体系とは違うものです。世界には自分の知らない奥行きがあったのだと気づかせてくれる」

――怖いものが持つ未知性ですね。「怖いのに」惹かれる、というよりも、「怖いから」惹かれる、と言えるのかもしれません。

穂村「特に今って、みんなにいいとされるものがインターネットやテレビを通じてフィードバックされていく時代だから、そうではないものに新鮮な魅力を感じるのではないでしょうか。たとえば最新のオフィスやホテルって、そんなフィードバックの粋が集められているから、すごく快適でいいものですよね。一方で、クラシックなビルやホテルも人気があったりします。それらは利便性では確実に劣っているはずなのに、そうではない価値体系をもっているから」

――京都に旅行すると、想像を超えたものに出合って「京都のマジック」にかかり、いつもなら買わないようなものを買ってしまうというエピソードも「京都こわい」と書かれていました。

穂村「ある時期までは、我々はいくつかの体系を生きていたと思うんだけど。でも、今はあまりにも合理性や利便性ばかりが幅を利かせる社会になっているようです。だから、そこから外れるものを見ると、こわうれしい。ノスタルジーとはちょっと違っていて、パラレルワールドに来たような気持ちでしょうか」

――小さい頃や学生時代の怖いお話もいくつか出てきます。口裂け女のように子供が怖がるものもあれば、昔は平気だったのに、今は恐ろしく感じることもあります。

穂村「年をとるにつれて、どんどんリアルな恐怖の要素が増えてきますね。母親に『今は昼かい? 夜かい?』と聞かれたりとか。自分自身の老いや病気なんかも」
だが、死がこわいのはわかるとしても

――この本自体も、インパクトのある表紙ですが、怖さだけではなく可愛さが感じられます。

穂村「装丁は憧れのデザイナーさんを指名させてもらっていて、今回は祖父江慎さんにお願いしました。まず、文章のレイアウトを一目見てハッとしました。余白や書体が美しく、文中に引用している短歌が視覚的にも映えるようになっている。それから、カバーや目次のページ、スピン(ひも状の栞)も衝撃的で……。いろいろな〈仕掛け〉があるので、ぜひ手にとってみていただけたらうれしいです」

穂村弘
ほむら ひろし*1962年、札幌生まれ。歌人。短歌のほか、エッセイなどの散文や批評でも活躍する。『絶叫委員会』(ちくま文庫)、『蚊がいる』(KADOKAWA)など、著書多数。

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