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スペイン・トップレベルの監督に必要な資質。分業化進む指導の現場、求められる能力の変化

7/21(金) 10:20配信

フットボールチャンネル

 欧州のサッカー界ではコーチングスタッフの数が増加傾向にあり、それに伴い指導の分業制が確立されてきている。これを受けて、これまで以上に監督に求められているのがマネージメント能力だ。7月上旬に行われた「スペインサッカーから見た日本の現在地」というトークイベントから、その内容の一端を紹介する。(取材・文:小澤一郎)

●監督はサッカーを教えるよりも、マネージャー的な存在に

 7月5日、渋谷にあるBOOK LAB TOKYOにて「スペインサッカーから見た日本の現在地」というトークイベントが行われた。昨季までルイス・エンリケ監督の下でFCバルセロナのフィジカルコーチを務めラファエル・ポル(※17/18シーズンよりセルタのフィジカルコーチに就任)の著書『バルセロナフィジカルトレーニングメソッド』(カンゼン)の出版を記念したもので、訳者の坪井健太郎氏と監修を担当した筆者が登壇した。

「16/17のラ・リーガを振り返る」というテーマの第一部の冒頭で話題となったのは、欧州トップレベルの監督に求められるマネージメント能力だ。欧州ではそれに伴いコーチングスタッフの数が増加傾向にあり、必然的に指導の分業制が確立されている。

 スペインのバルセロナではFCバルセロナ、エスパニョールに次ぐ第三勢力のUEコルネジャという街クラブのフベニール(ユース)Bで第二監督を務めていた坪井氏によると「監督の仕事はサッカーを教えるというよりも、どちらかというとマネージャー的なものとなり、マネージャーとして組織をまとめる要素が強くなってきています」とのこと。

 その視点で言うと、昨季レアル・マドリーを率いてラ・リーガとUEFAチャンピオンズリーグの二冠、史上初となるCL連覇を果たしたジネディーヌ・ジダン監督のマネージメント能力がわかりやすい。ジダン監督について坪井氏は次のように述べた。

「15/16シーズンの途中でラファエル・ベニテスに代わって昇格した時には、私も最初『どのくらいできるのかな?』と疑問視していました。ただ、やはり彼はクリスティアーノ・ロナウドを筆頭に、世界のトップレベルのスーパースターを扱うだけのカリスマ性があり、彼らを見事手なづけました。戦術的機能については、(レアル・マドリーには)いい選手が揃っていますので、第二監督を筆頭に上手くチームを組み立て、全体のイメージを作っていたという印象です」

●バルサ新監督・バルベルデ、成功の鍵

 スペインのコーチングスクールでは、実際にチームマネージメントの科目があり、「選手の中にどういうグループが生まれやすいか、育成年代で親のコントロールをどうするのか、プレシーズン最初の段階で何を決めるべきか、選手に何を伝えなければいけないか、といった内容を過去の事例を参考に勉強していきます」と坪井氏は説明する。

 例えば、ラ・リーガ1部で活躍する乾貴士はSDエイバルのメンディリバル監督について「全員に同じことを言える監督」と評することが多いが、選手を平等に扱うことのできる監督は欧州でも意外に少ない。

 約2年前、筆者がビルバオでアスレティック・ビルバオのトレーニングを見学した際、エルネスト・バルベルデ監督は試合前であるにも関わらず主力組みではなく控え組みのミニゲームに入って笛を拭き、ワンプレー毎にプレーへの評価を口にしながら控え選手のモチベーションを上げる熱血指導を行っていた。

 そのバルベルデはバルセロナの新監督に就任したわけだが、坪井氏は「メッシを上手く扱えるかどうか。前任のルイス・エンリケも1年目はメッシとバチバチやりあった時期があり、それを乗り越えて初年度に三冠を獲りました。バルベルデ監督がそこをどうマネージメントできるかが最初のハードルです」とビッグクラブ特有のマネージメントが成功の鍵になるとの見方を示した。

 本稿でもう一つ取り上げるのがラ・リーガでプレーする日本人選手についての坪井氏の評価だ。まず1部で2シーズン戦った乾について坪井氏は「ちょうど最終節カンプ・ノウでのバルセロナ戦を観に行っていて、彼が2ゴールを決めた瞬間を見ることができました。率直な感想としては、守備のタスクを不自由なくこなしている印象を受けました」と意外にも守備面での成長を取り上げた。

「すごくナチュラルに守備の仕事、マークを付くべき相手は誰なのか、プレッシングに行く時に自分のマークを捨てて違うところに行ったりするダイナミズムの中でプレッシングの仕事をそつなくなくこなせていたという部分に関して、ものすごく成長したなと感じました。スペインでサッカーをするためにはそれがすごく大事で、まず守備ができない選手は使われません」

●昨季2部でプレーした鈴木大輔と柴崎岳。1部で活躍のためには?

 昨季は2部でプレーした鈴木大輔(ジムナスティック・タラゴナ)、柴崎岳(テネリフェ)について坪井氏は、「この2人に関しては、まだまだフィットするプロセスにいる選手ですので、もう少し時間をかけて見ていかないと評価が難しい」とした上でこう続けた。

「日本とスペインでは、サッカーそのものが異なるのではないか、というくらいスタイルが異なります。そこにフィットするためには言葉も覚えなければいけないし、スペイン人がどういうサッカー観でプレーしているかを理解し、それに順応しなければいけません。

 そうなると大体、2年かかるのが通例です。鈴木選手は1年半、柴崎選手は半年ですので、もう少し様子を見てどこまで本来の力を発揮できるのかを測る必要があります。ポテンシャルは2人共にありますので、(来季)1部に上がる可能性は十分にあると思っています」

 ラ・リーガ2部についても坪井氏は独自の見解を示した。

「もちろん、レベルも高いのですが、1部とはまた違う特徴のリーグ、ある意味で1部よりも難しいリーグです。テクニックレベルもそこまで高くないので、トランジションの数は多い。手数をかけずにゴールまで持って行こうというサッカーが主体で、どのチームもそれしかできない部分があります。

 1部と比較するとテクニック、戦術面で劣るので、よりフィジカルに特化したゴリゴリのサッカーで、攻撃はカウンター主体、縦に早いという特徴が1部よりも色濃く出ています。ですので、体が小さい日本人にとってはものすごく難しいカテゴリと思います」

 テネリフェとの契約が満了となった柴崎は、ラ・リーガ1部昇格を決めたヘタフェへの移籍が決まり、来季もラ・リーガでプレーする日本人選手からは目が離せない。それと同時に、スペインでプレーすることでトップレベルの日本人選手でも総体的に不足している戦術と守備のレベルが上がるメリットをこの日のイベントでスペインサッカーの現場を知り尽くす坪井氏は伝えようとしていた。

(取材・文:小澤一郎)

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