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日銀の黒田総裁の記者会見-価格設定行動

7/21(金) 11:32配信

NRI研究員の時事解説

はじめに

今回の日銀の金融政策決定会合は、景気見通しを上方修正した。しかし、会見に出席した記者の関心を集めたのは、残念ながら、物価見通しの下方修正と、2%のインフレ目標の達成時期の6回目の延期の方であったようだ。しかも、興味深いことに、インフレ関連のこうした見通しの改訂にも拘らず、追加緩和を求める声は記者の間からほとんど聞かれなかった。

新たな見通し

今回の展望レポートには、経済活動の拡大に対する日銀としての自信が示唆されている。実際、個人消費が以前の一時的な弱さを克服して堅調に推移し、企業の設備投資計画にも改善がみられることが指摘されている。加えて、海外経済の緩やかな拡大を背景に、外需の安定に対する期待も示されている。

このような見方を背景に、金融政策決定会合は実質GDP成長率の見通しを、来年にかけて上方修正した。新たな見通し(median)は2017年度から2019年度にかけて1.8%→+1.4%→+0.7%とされている(前回<4月>は+1.6%→+1.3%→+0.7%)。日銀による経済見通しは市場の平均に比べて高めとの指摘が予てあるが、いずれにせよ日銀の見通し通りであれば、少なくとも2018年度までは、前回上方修正された潜在成長率の推計値をかなり上回って推移することになる。

一方、金融政策決定会合は消費者物価インフレ率の見通しを下方修正した。つまり、新たな見通し(median)は2017年度から2019年度にかけて1.1%→+1.5%→+1.8%とされている(前回<4月>は+1.4%→+1.7%→+1.9%)。この点に関し展望レポートは、需給ギャップの好転にも拘らず、企業や家計の価格や賃金の設定に関する行動が変化しないことが、インフレ率の上昇を抑制しているとの見方を再三強調している。実際、需給ギャップに関しては、日銀だけでなく内閣府も概ね解消されたとの見方を共有しているだけに、インフレ率が高まる兆しが見られない理由を別なところに求める必要があった訳である。

展望レポートによれば、企業は労働力不足に直面しても、賃金の引上げではなく、ビジネスモデルの変更や省力化投資の実施などにより新規雇用を抑制する傾向がみられるという。また、黒田総裁は、記者会見の中で、こうした対応がサービス業にみられると説明した。おそらく、企業経営者に質問すれば、こうした対応が実際に行われているとの回答が得られるのであろう。

ただ、そのことが物価見通しや金融政策の運営に対して持つ意味合いは一筋縄ではない。つまり、展望レポートは需給ギャップの引締まりが続けば、やがてこうした対応も維持しえなくなり、賃金上昇を起点とするインフレの加速に繋がるとの見方を示した。しかし、企業の対応が急速な高齢化といった構造問題に対応するためであった場合は、長期にわたって残存することも考えられる。より広い視点からみても、価格や賃金に関する慎重な対応は、“バックワード“なインフレ期待によるものであることが考えられる一方、長期的な成長期待が低いとう“フォワード“な要因による可能性も残る。いずれにしても、2%のインフレ目標の達成に向けては、より忍耐強い対応が必要となった訳である。

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