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通販もいちご狩りもやらない「奥山いちご農園」のいちごのヘタが反り返っている理由

7/21(金) 8:10配信

@DIME

ここのコーナーで紹介していくのは名産品未満だ。地方が「名産品を作るぞ」と試行錯誤し、作った新たな食べ物である。しかし、まだ有名ではないので名産品未満と言わせてもらう。

土地の色が強くでる食べ物は、その場所で生活をしていなければ思いつかない。僕は、それを「風土フード」と命名した。

先日、奥山君と酒を飲んだ。けして頻繁に会うわけでもないが、趣味が合うので話していて楽しい。お互いの近状について報告している際「ヨシムラさんって、僕の実家がいちご農園をやっていることは知ってますよね?」と言う。

詳しくはないが、岡山にある彼の生家がそーだとは知っていた。その旨を伝えると「最近、実家のいちご農園と僕でいちごを使った商品開発をしてるんです」と言うではないか。そして「いちごジュースなどを出す、カフェ事業も始めてるんです」と続く。

確かに、最近の奥山君のFBは、いちごの写真が並んでいたっけ。面白そうだったので、後日取材をしてみた。

阿佐ヶ谷のサンマルクカフェにて。

最初に聞いたのは「なぜ新たな試みを始めたか?」

「うちの実家”奥山いちご農園”は、50年続くいちご農家なんです。祖父から父親が継いだのが十数年で、それをキッカケにJAを辞めました。親父は、凝り性なんで本当に美味しいいちごを届けたいらしく・・・」

JAを通すと、そこから市場へ運ばれ、スーパーなどの小売店を経由してから消費者にいちごが届く。その時間を逆算すると、まだ青みがかったいちごを摘み、パックしなければならない。しかし、奥山いちご農園では最高のいちごを提供するために完熟状態で摘む。

その形態で販売するには、朝摘んだものを直売所で消費者に直接買ってもらうか、その日のうちに直送、または市場に卸す方法がベストだと言う。

「最高のいちごを用意するには手間暇がかかるんです」と奥山くん。

両親のスケジュールをざっと説明してくれた。

「朝7時にいちごを収穫します。終わるのが10時で、直売所が11時にオープン。18時の閉店まで、接客をしながら流通用にいちごをパックに詰める。けど、母親は接客が大好きなんで、そっちに集中しちゃう。パック詰めの作業が、父親と祖母だけになっちゃうんですよ。営業時間が終わっても、詰める作業は続き。終われば、父親が市場にいちごを届ける。結局、夜の12時まで作業してるんですよ。そこから晩飯食べて1時に寝るんです」

時給を換算したら泣きたくなる超絶ブラック。そんな両親を救うためには、いちご農園の構造改革が必須。奥山君は、東京で学んだデザインとマネジメントを使って、どーにかできないかと動き始めた。

パック詰めの作業をなくすことを目標設定。最初に行ったのは母親の新しい居場所を作ることだ。

「うちの母親がカフェをやるのが夢だったんです。”あんたがデザインしたカフェをやりたいわぁ”とずっと言ってたんです。そこで、直売所とカフェを併設したスペースを作ることにしました。カフェでいちごを使ったオリジナルメニューを売りながら、いちごも売るカタチですね。小売店ではパック詰めしたいちごしか卸してはいけないルールがあります。ただ、直売所ではパック詰めしてないいちごも売っていいんです。奥山いちご農園としては、直売所で買ってもらった方がありがたいし、お客さんにもより多くいちごを届けられるんですよ」

地方で新しいことをするのは大変そう。大変な偏見だと思うが聞いてみる。

「正直、めちゃくちゃ大変でした。岡山市内の外れ、九蟠地区の又兵衛町というところに奥山いちご農園はあります。世帯数も10ほどで、遠縁も多く、村全体が家族みたいなもんなんです。最寄りのバス停から徒歩30分。立地条件も悪いことから地域の人からは”カフェなんてやっても絶対に客は来ない”って意見がほとんどでした。カフェのオーナーは、JAの正社員だった妹が脱サラして勤めることに。そういったこともあり、一番反対したのが祖父だったんですよ」

確かに、JAという優良企業をやめてカフェ経営。祖父の気持ちも分からなくはない。

「けど、一生懸命やっている姿を見せるうちに村の年長者も協力的になってくれたんです。カフェの内装で漆喰を塗っていたら、祖父が”ワシにも手伝わせてくれ”と言ってくれた時は嬉しかったですね。他にも造園業をしている方が看板を作ってくれたり、農機具を作っているメーカーがエンジンの技術を利用した特注のアイスクリームメーカーを開発してくださったり。地元の人のエネルギーがあったから生まれたカフェだと思います!」

そんなカフェの名前も「いちごをのせるお皿、地方の受け皿」という意味を込めてplateと名付けた。多くの人の想いが詰まったカフェは、オープン初日に200人、2日目に240人と素晴らしいスタートをきる。

「いちご狩りはやらないの?」と聞けば「絶対にやりません」と答える。

「いちご摘むベストなタイミングって難しんですよ。それこそプロの目が必要なんです。一番美味しい状態で届けたいからこそ、いちご狩りはやりません。僕も子どもの頃から、いちごと接しているから感覚的に一番美味しいものが分かるんですよ。最も糖度が上がっている時のいちごはヘタが反るんですよ。だから、奥山いちご農園のロゴマークのいちごもヘタが反ってるでしょ。作った当時は知らなくて無意識だったのですが、感覚的には分かってたんでしょうね」

奥山いちご農園は、パック詰めしない代わりに、いちごを使った商品開発を始めた。定番のジャム(600円)に続き、この夏に発売をしたのが、いちごを高純度で濃縮した手しごとのシロップ(900円)。かき氷にかけて良し、サイダーと割ってよし、ジメジメした夏にいっときの爽やかさを与えてくれる一品。

僕も牛乳に割って飲んでみた。お世辞ではなく、今まで飲んだどのいちご牛乳よりも美味しくて。すこぶる感動、本当に純度100%の上物の魔法のシロップだと実感。パン、アイス、ヨーグルトなんでも合う。

唯一の難点は通販をしていないこと。plateに足を運ばないと買えない。シロップ中毒となった僕は「早く東京でも買えるようにして!」とリクエスト。

奥山君は「通販をやると、また両親が忙しくなっちゃうじゃないですか・・・」と即答。

彼は、つくづく親孝行で良いヤツ。ただ、通販はして欲しい。

風土度  ★★★★★
フード度 ★★★★★

取材・文/ヨシムラヒロム

@DIME編集部

最終更新:7/21(金) 8:10
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