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「ヒアリでの死亡例はない」は誤報!100人とはいかないまでも44人の死亡が確認

7/21(金) 8:50配信

HARBOR BUSINESS Online

 ヒアリは人間活動にとって大きな害を与える、生物種世界の侵略的外来種ワースト100ランカーだ。ヒアリにはお尻に針をもち、一度に数回刺してアルカロイド系の毒を注入する。日本にはいないタイプのアリだ。刺されると火傷のような痛みを伴うことから、fireantsという名がつけられている。

 今年の6月、そのヒアリが初めて日本で見つかった。まず神戸で確認されたあと、名古屋、大阪、東京、そして横浜でも次々にヒアリが発見され、連日のようにメディアで報道されている。

 ヒアリは人的被害のほか、農作物を荒らしたり、電気系統に入り込んで故障させるなど、甚大な経済的被害を与える。ここまでヒアリに関心が集まるのは、やはり、「殺人アリ」とよばれるヒアリがどの程度の健康被害をもたらすのか、多くの人が不安に感じているからだろう。

 ヒアリは攻撃的で、自分たちの巣が壊されたりすると、襲い掛かってくる。アメリカでは、たびたびヒアリに刺されて死亡するケースが報告されている。2016年には、ある女性が干し草の上で電話をしている時にヒアリの群れに襲われて亡くなった。この女性は、その前の日に亡くなった自分の母親の葬式の段取りをしているところだった。

 ヒアリの被害は、屋内でも起こりうる。1990年には、モーテルのベッドで就寝していた69歳の男性がヒアリの群れに襲われた。吐き気を訴える男性の声に、気付いた妻。妻が電灯をつけてシーツをはがすと、ヒアリの群れが夫の体を繰り返し刺していた。この男性は病院に運ばれたが、しばらくして死亡した。

 また、死亡したケースではないが、老人ホームなどで寝ていたお年寄りがヒアリの大群に襲われ、1000回以上刺されたという報告もある。

 ハチとは違い、ヒアリは音を立てないので、襲われるまで気付くことが難しい。ヒアリは狭い隙間からでも侵入することが可能なので、家の隙間から入ってこれるため、就寝中に襲われることもあるのだろう。もっとも、屋内でヒアリに襲われるケースは、かなり稀のようだが。

◆誤報の発端は日本語書籍

 それでは、ヒアリに刺されて死ぬリスクは、実際にどの程度のものだろうか。

 日本語で読める唯一のヒアリ本である『ヒアリの生物学』は、アメリカでヒアリに刺される人は年間1400万人であり、毎年100人ほどが死亡する、という説を紹介している。日本ではスズメバチに刺されて死ぬ人が年間20人ほどおり、この説は、もともとはアメリカで出版された『FireAnts』という本の一節を引用したものだ。

 環境省や東京都の公式ウェブサイトでも、この「年間で100人死亡」とする説を引用していた。だが実は、この説を裏付けるデータについては、探しても見つからないのである。筆者も独自に文献を調べてみたが、年間100人がヒアリで死亡するとするデータは見当たらなかった。

 そして、文献を調査してわかったのは、1998年までに、累計で44名の死亡が確認されていた、ということだった。この数字は、かなり少なく見積もられたものではある。ただ、年間100人というのは、少し多すぎる数字にも感じる。もっとも、仮に100人が死亡するとしても、ヒアリに刺されて死ぬ可能性は0.001パーセント以下であり、交通事故で死亡するリスクよりもはるかに低い。

 先日、ようやく環境省も「ヒアリで年間100人が死亡するという説は確認できなかった」という声明を出した。環境省や東京都のウェブサイトからも、この文言は撤回されている。

 だが困ったことに、この環境省の声明を受けて、一部の報道機関が「ヒアリによる死亡例はない」とする誤った情報を流してしまった。この情報は現在もネット上で拡散し、少なくない人々が「ヒアリで死ぬというのはウソだった」と信じているようにみえる。

 政治も経済でもそうだが、物事は0か1かに分けられるものではない。ヒアリによる死亡リスクもしかり。情報を発信する側も、それを受けとる側も、そこを注意しなければならない。

・参考資料

『ヒアリの生物学』東 正剛、緒方 一夫、S.D. ポーター 著 東 典子 訳

『Fire ants』Taber S.W. 著

deShazo and Banks (1994) Medical consequences of multiple fire ant

stings occurring indoors. J. Allergy Clin. Immunol. 93:847-50.

Woman killed by fire ants the day after her mother dies:Independent

危険な外来生物「ヒアリ」:東京都

『ヒアリの生物学』でヒアリの生態を知る:クマムシ博士のむしブロ

「ヒアリに刺されて年間100人死亡説」を検証する:クマムシ博士のむしブロ

「ヒアリ死亡例は確認されなかった」という一部報道を検証する:クマムシ博士のむしブロ

<文・堀川大樹>

【堀川大樹】

クマムシ博士。1978年東京都生まれ。2001年からクマムシの研究を続けている。北海道大学で博士号を取得後、NASA宇宙生物学研究所やパリ第5大学を経て、慶応義塾大学先端生命科学研究所特任講師。クマムシ研究の傍ら、オンラインサロン「クマムシ博士のクマムシ研究所」の運営やクマムシキャラクター「クマムシさん」のプロデュースをしている。著書に『クマムシ博士の「最強生物」学講座』(新潮社)と『クマムシ研究日誌』(東海大学出版会)。ブログ「むしブロ」、有料メールマガジン「むしマガ」も運営。

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