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「勝ちパターン」から抜け出せなくなった百貨店業界

7/22(土) 12:00配信

BEST TIMES

「今さら聞けない」ニュースのキーワードについて、「分からないことはなんでも聞いちゃう」いまドキの社会人、トオルくんとシズカちゃんが第一人者の先生たちに話を聞いていきます。



●かつては「イノベーター」だった百貨店

 シズカ…前回は百貨店業界の厳しい現状を教えてもらいました。でも私としては百貨店自体にも問題点があったのかなと思ってるの。何か打つ手はなかったのでしょうか。

杉原(杉原淳一、「日経ビジネス」記者、『誰がアパレルを殺すのか』著者)…いいツッコミです。それを考えるために少し百貨店の歴史を振り返ってみましょう。実は、大手百貨店のルーツは「呉服屋」にあったんですよ。

トオル…え、そうなの!?  知らなかった! 

杉原…呉服屋の販売方法は、まず訪ねてきたお客さんの要望を聞き、店の奥からそれに合った商品を持ってきて売っていました。これを「座売り」と呼びます。明治時代までこの販売方法がスタンダードでしたが、三越(当時は三井呉服店)が初めから店頭に商品を並べておく「陳列販売」に変えたのです。

シズカ…今では当たり前の光景だけど、百貨店がきっかけだったなんて! 

杉原…つまり、呉服屋がイノベーションを起こし、今日の百貨店になっていったわけです。そんなイノベーターの百貨店でしたが、高度経済成長期になるとチャレンジスピリットをなくしていきました。

トオル…かつては「イノベーター」! ということは今の「問題点」というのはその性格を失ってしまったことにある……。

杉原…そういうことです。一回乗った勝ちパターンから抜け出せなくなったのでしょう。そして、百貨店の内部からイノベーションが生まれていなくて硬直化してしまったのです。

シズカ…その「勝ちパターン」って? 

●「消化仕入れ」という独特の慣習

杉原…これはあらゆる面に当てはまりますが、ひとつ分かりやすいのが独特の「仕入れ」の仕組みでしょう。百貨店はアパレル企業から商品を仕入れて販売しています。そんな中、1990年代頃から「消化仕入れ」という業界独特の慣習が主流になったと言われています。これは、百貨店がアパレル企業に売り場を貸すだけで、そのアパレル企業に商品を並べてもらったり販売員を用意してもらったりする仕組みです。この時点では、商品の所有権はアパレル企業が持ったまま。そして、その商品が売れたときにだけ「百貨店が仕入れた」と見なすわけですね。

トオル…全く同じってわけじゃないだろうけど、本屋さんの返品制度にも似てる仕組みな気がする。

シズカ…百貨店は在庫を持たず、仕入れのリスクを負わないってことよね。百貨店にとっては好都合かもしれなけど、アパレルブランドにとっては不利じゃないかしら。

杉原…たしかにそうです。例えば、商品が万引きにあってもアパレル企業側の負担になりますからね。しかし、当時はバブル崩壊の影響もあってアパレル企業も厳しい状況が続いていました。販売力の強かった百貨店の良い売り場を確保することが死活問題でしたから、不利な条件でもしかたなくのんだのです。

トオル…持ちつ持たれつってことだったんだね。

杉原…そして、百貨店はとにかく真新しい商品をたくさん集めて販売を拡大させようとしました。しかし、その結果個性のあるブランドは減り、似たような商品を展開するアパレル企業ばかりに。結果的に、百貨店の価値も薄れてしまったのです。

シズカ…そこにユニクロとかネット通販も選択肢にあるわけだから、お客さんは減っていくわよね。当然と言えば当然だわ。

杉原…百貨店を取り巻くあらゆる環境は大きく変化していますが、何十年前に確立したビジネスモデルのままになっている、という風に感じますね。

トオル…でも何で抜け出せないんだろう。だって、もともとはイノベーターだったわけなのに。

杉原…高度経済成長期の頃にアパレルが売れすぎたと言う側面もあるでしょうね。1960年代には「百貨店で既製服を買う」という行為自体が時代の最先端でした。

シズカ…今で言うと、フォトジェニックな写真をインスタグラムにアップするようなものかしら

杉原…高度経済成長期の波に乗るように百貨店やアパレル業界は成長していきましたが、その大きすぎる成功体験から抜け出せなかった影響もあるでしょう。実際、1990年代前半にバブルが崩壊し、2008年にはリーマンショックも起きていますが、ビジネスモデルを大きく変えてはいませんし。もちろん、百貨店としては売り場を変更したり、最新のアパレル企業に入ってもらったりするなど工夫はしているでしょうが、消費者をあっと驚かせる様なことはできていません。

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