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IS駆逐後のシリア、イラクをどうする?戦略なきトランプ政権

7/22(土) 12:11配信

Wedge

 ワシントン・ポスト紙の6月19日付け社説は、米国にはISがシリアで敗北した後どうするかの戦略がなく、このままではイランとロシアの進出を許してしまう、と警告を発しています。社説の要旨は以下の通りです。

 イラクとシリアでISを破るとの米国の目的は達成されつつあるが、IS敗北後どのような安全保障秩序がとって代わるか、外部のどの国が新しい秩序の維持者になるかという問題につき、トランプ政権には戦略があるとは思えない。

 ISの撤去後、イランはラッカの南の油田地帯と、バグダッドとダマスカスの地上の回廊を支配しようと企んでおり、ロシアはロシアで、地域から米国を追い出そうとしている。

 シリアとイランは、トランプ政権はISと関係のないシリアの砂漠での戦闘に巻き込まれるよりは、同地域を放棄するのではないかと考えている可能性がある。他方、ロシアは6月18日のシリア戦闘機撃墜につき米国に激しく抗議し、シリア上空で米軍機に挑戦すると脅したが、これは、ロシアがシリアとイランを強く支持している証左である。

 米国にはシリアの南部と東部を支配する戦略的理由はないが、イランがロシアの支援を受けて、テヘランから地中海までを支配するのを防ぐのは、米国にとって重要である。そのようなイランの支配はイスラエルにとって生存にかかわる脅威となるだろう。イスラエルはすでに、ゴラン高原に近接するシリア領へのイランの浸透を防ぐのに四苦八苦している。イランの支配は米国の同盟国であるイラクとヨルダンを弱める。

 イランとロシアに対抗するには、米国の支援する勢力による戦術的防衛が必要なのに加えて、米国と同盟国に受け入れ可能な、地域の安全保障秩序を作るより広い戦略が要る。そのためにはトランプ政権はシリアの新しい政治秩序のための交渉の推進を図るとともに、イラン、ロシア、シリア政府に対し軍事的または経済的圧力を加える必要がある。トランプ政権はシリアの空域についてのロシアの脅しを拒絶するのみならず、プーチンに対し、もしイランとシリアで共同歩調をとるならば、米ロ関係をリセットする機会を失うことを明らかにすべきである。

出典:‘What happens after the Islamic State is defeated in Iraq and Syria’(Washington Post, June 19, 2017)

 トランプ政権はIS壊滅を中東政策の柱に掲げています。それ自体は重要なことですが、ISが撃退された後のシリア(そしてイラク)をどうするかについての戦略構想がないのは社説の言う通りです。

 オバマ政権は当初からシリアへの介入に及び腰でした。アフガニスタンとイラクの「羹に懲りた」結果であり、理解できないことではありません。しかし、「羹に懲りた」のは地上軍による本格的な軍事介入についてであり、シリアへの介入はそのような全面的な軍事介入ではありません。

 トランプ政権はオバマ政権のシリア不介入策を継いだように見えますが、理由は異なります。トランプ政権にはそもそもシリア、そしてさらには広く中東に関する戦略がないのです。

 しかし、シリアをめぐる情勢は大きく変化しようとしており、このままではシリア、およびシリアを中心とする地域での米国の影響力は失われかねません。同地域におけるロシアの影響力の増大は、同地域に限らず、世界における米国とロシアの勢力争いで米国を不利な立場に置くことになります。イランの影響力の増大は、イランの脅威を強調するトランプ政権にとってのみならず、米国の同盟国、特にイスラエルとサウジにとって放置できないことです。

 しかし、トランプ政権に何ができるかということになると、効果的な具体策はなかなか見えて来ません。

 社説は、「イラン、ロシア、シリア政府に対し軍事的または経済的圧力を加える必要がある」と言っていますが、具体的に何を意味するかは明らかでありません。

 またロシアについては、「もしロシアがイランとシリアで共同歩調をとるならば、米ロ関係をリセットする機会を失うことを明らかにすべきである」と述べていますが、果たしてトランプ政権がそのような立場をとれるか、仮にとったとしても効果が期待されるのかは分かりません。

 いずれにせよ、シリア、イラクからのISの駆逐が現実のものとなりつつある今、トランプ政権には、シリア、そしてイラクについての米国の戦略を早急に検討することが求められています。

岡崎研究所

最終更新:7/22(土) 12:11
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