ここから本文です

C大阪・杉本健勇が迎えた覚醒の時。自身初の2桁ゴール。遠回りして、強くなったセレッソ愛

7/24(月) 11:49配信

フットボールチャンネル

 J1の首位を走るセレッソ大阪の大型ストライカー、杉本健勇が覚醒の時を迎えている。浦和レッズに快勝した22日のJ1第22節の開始6分に先制点、2分後に追加点を見舞う大活躍を披露。ゴール数も自身初の2桁に乗せて得点王争いに参戦した。日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督も注目する24歳のホープのサッカー人生を振り返ると、川崎フロンターレへ完全移籍した2年前と、今シーズンから指揮を執るユン・ジョンファン監督との出会いがターニングポイントになっていることがわかる。(取材・文:藤江直人)

●戦い方の土台。「目の前の相手に絶対に負けない」

 目の前の相手に絶対に負けない。必ず先にゴールを奪い取る。そして、最後には笑う。セレッソ大阪のエースストライカー、杉本健勇は3つの誓いを胸に秘めながら、試合開始を告げるホイッスルを待った。

 ホームのヤンマースタジアム長居に浦和レッズを迎えた22日の大一番。レッズが来月15日のスルガ銀行チャンピオンシップに出場する関係で、直前の同13日に開催されるJ1第22節がひとつだけ、中断期間中の「サマーブレイク」に前倒しされた90分間で、セレッソが首位を走る理由をこれでもかと見せつけた。

 ワントップで起用された杉本が自らに言い聞かせていた「目の前の相手に絶対に負けない」は、今シーズンから指揮を執るユン・ジョンファン監督が厳命している戦い方の土台でもある。

「今日の試合を見てもらったらわかると思いますけど、目の前の相手に絶対に負けへんという気持ちが、僕たちのほうが上だったと思う。走る部分を含めて、そういう勝負というものを監督はすごく大切にしていますし、自分たちも大切にしている。そこがいまのセレッソの強みなんじゃないかと」

 まずは1対1の局地戦を制し続ける。そのために開幕前のキャンプでは午前6時台の早朝を含めて、3部練習を課されることも珍しくないハードスケジュールのなかで、体力だけでなくメンタル面も鍛え抜いた。

 サガン鳥栖時代にも同じアプローチでチームを成長させたユン監督は、当時の愛弟子で、今シーズンから期限付き移籍でFC東京から加わったMF水沼宏太と話し合いの場をもっている。

「ユン監督のやりたいことや、いままでのセレッソの緩い感じをみんなに伝える役になってほしいと言われました。ただ、ちゃんとやろうとなったときに、しっかりとできる選手がウチにはそろっている。いまの結果が出るのも、必然なのかなと思っています」

 ハリルジャパンの常連であるMF山口蛍やMF清武弘嗣、元代表でキャプテンのFW柿谷曜一朗、そしてロンドン五輪代表に最年少の20歳で選出された杉本。選手個々が高い能力を擁しながら、チームとなると「甘さ」や「緩さ」が顔をのぞかせてきたセレッソが、指揮官の厳しさを触媒として変貌を遂げた。

●レッズの戦意を喪失させる電光石火の2ゴール

 今月2日のFC東京戦、8日の柏レイソル戦、そして12日のアルビレックス新潟との天皇杯3回戦。すべて先制されながら逆転勝利をあげてきた勝負強さは、メンタル面の変化と決して無関係ではないだろう。

 もっとも、結果には満足できても、先制を許す試合内容には首をかしげてきた。さらなる成長を求める貪欲な思いが、杉本の言う「必ず先にゴールを奪い取る」につながっている。

「最近は試合への入りが悪いから、僕たち攻撃陣が必ず先に点を取ろうと。特に(水沼)宏太君とは『絶対に最初のチャンスをねじ込もう』と話していたので、本当にその通りになりましたね」

 言葉通りに、開始6分で試合が動いた。セレッソが獲得した右コーナーキックはGK西川周作に弾かれたが、セカンドボールを山口が拾い、中央のMFソウザに預ける。ソウザのパスは体を張ったMF柏木陽介に防がれたが、こぼれ球に水沼が反応する。

 このとき、柏木、DF森脇良太、キャプテンのMF阿部勇樹が手をあげてオフサイドを主張。連動するようにレッズの選手たちも一瞬のエアポケットに陥った隙を見逃すはずがない。水沼が放ったグラウンダーのクロスを、ゴール正面でフリーになっていた杉本が右足で冷静にゴール左へ流し込んだ。

 杉本の咆哮。大歓声で揺れるスタンド。レッズの選手たちが一気に浮き足立つ。わずか2分後には山口が敵陣で縦パスをカット。ショートカウンターから最後は柿谷が左サイドからあげたクロスを、再び杉本が今度は頭でねじ込んだ。

 マークについたDF槙野智章と空中で激しく競り合い、放ったシュートは直後に槙野の頭にもヒット。それでも「目の前の相手に絶対に負けない」なる執念が上回った。コースを変えたシュートはそれでも枠をしっかりとらえ、西川をあざ笑うかのようにゴール左に突き刺さった。

 レッズの戦意を萎えさせる電光石火の2ゴール。しかも、自身初体験となるリーグ戦で3試合連続ゴールを達成しても杉本は満足していなかった。

「あまりにも早い時間に点を取ったから、ハットトリックを達成したいと思ってしまって。欲が出すぎて周りが見えなくなっていたのが今日の課題。もっと冷静に判断してパスを出せば、味方のゴールになっていたシーンもあった。そこは修正していきたい」

 右足からのシュートが前半9分に右ポストを叩き、同34分には西川の真正面をつき、後半18分にはダイビングヘッドが右ポストをかすめた。それでも、反省の弁を優先させた杉本の背中に引っ張られるように山口、DF丸橋祐介がゴールを叩き込み、大量4ゴールを奪った前半の段階でほぼ勝負を決めた。

●過去に二度セレッソを離れた杉本。異例にも映る行き来の背景

 後半途中からは布陣を3バックに変更。山村和也をトップ下から最終ラインに下げ、リスクを排除する戦い方で4連勝をマーク。連続不敗試合も「9」に、ホーム不敗神話も「10」に伸ばして首位をキープし、誓い通りに試合後にみんなで笑った理由を、杉本は3月4日に埼玉スタジアムで行われた第2節に求めた。

「アウェイで個人的にもチーム的にもすごく悔しい思いをしたけど、あの試合からセレッソはよくなってきた。前回は監督が代わって、選手もちょっと入れ替わったなかで、チームの方向性というものがちょっと曖昧になっていた時期ではあったので。僕たちの強い気持ちが、前半のゴールにつながったと思う」

 試合後の公式会見で、ユン監督をして「前後半を通して守備と攻撃の部分で何ひとつちゃんとできた部分がなかった」と言わしめた1‐3の完敗。あれから約4ヶ月半。セレッソがいかにして変わったのか、がわかるバロメーターがホームにレッズを迎えた一戦だった。

 以来、喫した黒星は5月6日のレイソル戦だけしかない。そのレイソルにもホームでの再戦でしっかりと借りを返した。前半に先制された悪い流れを一掃したのは、右コーナーキックからのこぼれ球を泥臭く押し込んで同点とした杉本だった。

 今シーズンは全19試合にワントップとして先発。ゴール数も自身初の2桁に乗せてチームをけん引しているが、J2の舞台でチームトップとなる14ゴールをあげた昨シーズンから、ひと皮むけたというオーラを漂わせていた。

 中学生時代からセレッソで育ってきた杉本は過去に二度、別のチームでプレーしている。最初は2012シーズンの序盤。ロンドン五輪出場を目指して出場機会を増やし、かつ1チームから最大3人選出という規制の適用外となるために、J2東京ヴェルディへ7月中旬まで期限付き移籍した。

 次は2015シーズン。川崎フロンターレへ完全移籍し、セレッソに別れを告げたはずの杉本は1年後、再び完全移籍という形でJ1昇格を逃したセレッソに復帰している。異例にも映る行き来の背景にある杉本の思いを、セレッソの玉田稔代表取締役社長はこう慮る。

「隣の芝生(は青く見える)じゃないですけど、いろいろと思うところがあって最初は出て行ったと思うんですね。ただ、やっぱり『自分がセレッソをJ1に上げる』という気持ちになってくれたと聞きました。強化部のほうにも(杉本)健勇が戻ってきたがっている、という情報が入ってきたので」

●もがき苦しんでいる古巣の姿。あえて選んだJ2でのプレー

 ウルグアイ代表のFWディエゴ・フォルランの加入で注目を集めた2014シーズン。二度の監督交代を強いられるなど、セレッソは混乱を極めた末にJ2へ降格した。シーズン途中で柿谷がスイスのバーゼルへ移籍。オフには杉本と南野拓実(ザルツブルク)もチームに離れた。

 しかし、翌2015シーズンのJ2開幕戦を、杉本は観戦に訪れている。前日の横浜F・マリノス戦で、新天地フロンターレでのデビューを飾ってから約24時間後。東京ヴェルディのホーム、味の素スタジアムへ足を運んだ後の心境の変化を、玉田社長は「勝手な想像ですけど」と断りを入れながらこう推察する。

「あの試合は先制されて、フォルランのフリーキックで何とか引き分けた試合でしたけど。自分がいたらもっと点を取れる、と思ったんじゃないでしょうか」

 2015シーズンのセレッソは、かつて鹿島アントラーズを率いたパウロ・アウトゥオリ監督が指揮。しかし、自動昇格となる2位以内に遠く及ばない4位に終わり、しかも1試合を残してアウトゥオリ監督が辞任。大熊清監督体制で臨んだJ1昇格プレーオフ決勝でも、アビスパ福岡の前に涙を飲んだ。

 もがき苦しんでいる古巣の姿が、心の奥底にセレッソへの愛が強く脈打っていることを再確認させたのかもしれない。フロンターレでは6ゴールをあげ、その時点におけるキャリアハイを更新。飛躍を期待させるパフォーマンスを残しながら、あえてJ2でのプレーを選んだ。

 リーグ戦で4位に終わった昨シーズン。J1昇格プレーオフを勝ち抜き、決勝でファジアーノ岡山を1‐0で振り切った試合直後のピッチ。山口、この年から復帰した柿谷とともに、杉本は人目をはばかることなく号泣している。そのときの思いを、山口はこう代弁している。

「曜一朗君や(杉本)健勇を含めて、アカデミー出身の自分たち3人が、セレッソを引っ張っていかなきゃいけないと思っている」

●覚醒といっても過言ではない今シーズン

 187センチ、79キロの恵まれた杉本のボディには高さと強さだけでなく、器用さも搭載されている。ゆえに昨シーズンは中盤のサイドやトップ下で起用されることが多く、セレッソ大阪U‐18時代には長身を見込まれて、センターバックとの二刀流に挑んだ時期もあった。

 しかし、ユン監督は開幕から杉本をセンターフォワードに固定する。秘められている点取り屋としての潜在能力をすべて解き放て、とばかりに「後ろに下がりすぎるな」と厳命してきた。

「相手ゴールに一番近いポジションでやらせてもらっているので、やっぱり自分が点を取らないといけないと思っている。まだまだ足りないですけど、チームが勝てているから嬉しいですよ。ただ、昨シーズンから自覚というか、自分が点を取って勝てば気持ちがいいというのはありますね。

 今日もレッズはズラタンとラファエル・シルバがゴールしましたけど、頼む、興梠(慎三)選手だけは取らんといてくれと。山下(達也)さん、ヨニッチ、頼むって。僕もあと2点は取れるチャンスがあったし、興梠さんに追いつけるチャンスがあったんですけど。まあ、コツコツとやっていきます」

 12ゴールで得点ランキングのトップを走るレッズのFW興梠慎三を封印してくれたセンターバックコンビ、山下達也とマテイ・ヨニッチに杉本は苦笑いしながら感謝の思いを告げた。これで2ゴール差。逆転で得点王争いをリードする状況も不可能ではなくなってきた。

 新たな夢も広がる。フロンターレ時代の2015年3月18日。当初の予定にはなかったフロンターレと名古屋グランパスのヤマザキナビスコカップ(YBCルヴァンカップ)予選リーグを視察した、就任直後の日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督はこんな言葉を残している。

「誰も私に教えてくれなかったが、興味深い選手を発見することができた。これから追跡していきたい」

 一体誰なのか。答えは5月中旬に行われた、国内組だけを対象とした日本代表候補合宿で明らかになる。グランパス戦で後半終了間際から出場していた杉本が、合宿の時点でリーグ戦で1ゴールながら大抜擢されたからだ。覚醒といっても過言ではない今シーズンの活躍は、指揮官の目にも留まっているはずだ。

「今日も宏太君や曜一朗君がいいボールをあげてくれたし、僕は本当に合わせるだけでしたから。僕にボールを集めてくれる仲間に感謝しながら、ハードワークを含めて献身的なプレーを継続していきたい。そうすれば必ずチャンスが来るので、それらをしっかりと決め切る選手になっていきたい」

 眩いスポットライトを浴びても、自らの立ち位置は見失わない。遠回りをした過程でセレッソへ帰依する思いをさらに強めた24歳は、空中戦の強さを含めた相手ゴール前における存在感と謙虚な姿勢をセレッソの最前線に加えながら、チームメイトの大半が経験したことのない優勝争いをけん引していく。

(取材・文:藤江直人)

フットボールチャンネル

記事提供社からのご案内(外部サイト)