ここから本文です

先進国、IT浸透で賃上げ鈍く 緩和長引く(加藤出)

7/25(火) 7:47配信

NIKKEI STYLE

 失業率が低下している割に、過去に比べて賃上げのペースが遅い、という現象が日本のみならず多くの先進国で起きている。その背景の一つにはデジタルイノベーションがあり、多くの中央銀行は金融政策の正常化に向かいつつも、そのペースはゆっくりと慎重に進めようとしている。だが、緩和の長期化は資産バブルを生みやすい。中銀にはインフレ目標の達成とともに資産バブルをけん制するという、両にらみの姿勢が求められている。

■米欧英ともに賃金の伸びは低い

 今から10年前、2007年6月の米国経済は、破裂寸前だったサブプライム・バブルによる好況に沸いていた。当時の失業率は4.6%とかなり低く、平均時給は前年比3.6%の伸びを示していた。一方、今年6月の失業率は4.4%であり、10年前よりもさらに低い水準にある。しかし、平均時給の前年比伸び率は2.5%にとどまっている。賃金の伸びが低いと、インフレ率も上昇しにくい。6月の米消費者物価指数(CPI)はほぼ横ばいと、力強さにかける内容だった。
 米連邦準備理事会(FRB)は、バランスシートの縮小開始は9月の米公開市場委員会(FOMC)で決定するつもりのようだが、誘導目標であるフェデラルファンド金利については据え置くとみられる。インフレ率の反転を確認する必要があるためで、現時点では次の利上げは「早くて12月」と思われ、来年にずれ込む可能性も浮上している。
 ユーロ圏の景気回復に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は自信を強めている。ECBは遅くとも今年10月までに出口政策を前提とする来年の資産購入策縮小を決定するだろう。しかし、賃金上昇ペースは以前よりも遅いため、マイナス金利の引き上げを前倒しで実施する可能性は低い。金利引き上げは、来年後半以降だろう(資産購入縮小の完了後)。
 英国の5月の失業率は4.5%だった。これは1975年以来の低水準だ。当時の平均週間所得の前年比伸び率は30%を超えていたのに対し、今年5月のそれはわずか1.8%でしかない。英国の最近のインフレ率は2%を超えているが、これは昨年来のブレグジット問題によるポンド下落が招いた輸入物価高騰のせいである。イングランド銀行(中銀)のカーニー総裁は先日、ポンド安が過度に進まないように利上げの可能性を示唆した。しかし、賃上げが弱々しい状況においては、急激な利上げはできないであろう。
 国際決済銀行(BIS)が今年6月発表の年次告書で指摘したように、グローバリゼーションとデジタルイノベーションが、賃上げと物価の上昇ペースを世界的に遅くしている可能性がある。ここでは以下、デジタルイノベーションに注目してみよう。米国ではアマゾン・ドット・コムなどの電子商取引(EC)の急拡大によって、既存の小売業は店舗数の劇的な縮小と従業員の大規模な解雇を強いられている。
 今年5月時点の10年前に比べた既存の小売業の雇用者数は、デパートが42%減、家電販売店が31%減、文具・オフィス用品販売店が39%減、書店・ニューススタンドが45%減である(米労働省データより)。そういった業種では、好況期とはいえ賃上げペースは遅くなりがちだろう。ゴールドマン・サックスの推計によると、売り上げ100万ドルあたりに必要な従業員数は、既存の小売店は3.5人だがECでは0.9人で済んでしまうという。

1/3ページ

最終更新:7/25(火) 7:47
NIKKEI STYLE

記事提供社からのご案内(外部サイト)

ライフスタイルに知的な刺激を。
生活情報から仕事、家計管理まで幅広く掲載
トレンド情報や役立つノウハウも提供します
幅広い読者の知的関心にこたえます。

Yahoo!ニュースからのお知らせ