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東京五輪まで丸3年 ボランティア参加の機運高まるか

7/25(火) 7:47配信

NIKKEI STYLE

 7月24日で2020年東京五輪の開会式までちょうど3年(パラリンピックは8月25日開幕)。一生に一度あるかないかの地元の五輪は、アスリートのためだけの祭典ではない。国民的な参加意識の高まりが大会を成功に導く。
 競技会場に選手村、空港――。大会期間中、世界中から訪れる選手や観客と接し、円滑な運営を支えるのがボランティアだ。来年夏の募集開始を前に、企業や大学で参加機運を高める取り組みが始まっている。
 5月末の夜、東京・丸の内にある日本生命のビルの一室に仕事を終えた社員約100人が続々と集まった。部署や年齢が異なる数人がグループになってコミュニケーションを深めるゲームをしたり、講師からスポーツボランティアの基礎を学んだり。約2時間の研修会に、参加者からは前向きな感想が聞かれた。
 スポーツボランティアは未経験という高木ひとみさん(46)は「楽しみながら取り組めるのが魅力だと分かった。機会があればやってみたい」。語学ボランティアの講座も受けた庵前徹さん(56)は「20年の大会時には多くの外国人が訪れるので、『おもてなし』ができれば」と関心を深めた様子だった。
 以前より社員の社会貢献活動を推奨している同社は、15年に東京五輪のゴールドパートナーとなったのを契機に、スポーツボランティアへの積極参加も促している。社員向けサイトで、スポーツ大会の情報や社員のボランティア体験などを掲載。16年度は車いすテニス大会で選手に飲み物を渡す活動など、56のスポーツイベントに延べ857人の社員が参加したという。
 日本生命の研修を担当したNPO法人日本スポーツボランティアネットワーク(JSVN)は、研修会を通じて資格を認定している。資格研修会はこれまでに約4千人が受講し、最近は問い合わせも増えているという。
 20年大会で大会組織委員会と東京都が集めるボランティアは合計9万人以上と、かつてない規模だ。来年夏の募集開始を前に、一部は今年度中にも募集が始まる。組織委の募集案では、競技会場や選手村で運営に直接携わる「大会ボランティア」は10日以上、空港や駅、観光名所に配置される「都市ボランティア」は5日以上それぞれ活動できることが条件で、大会前には研修参加も求められる。
 12年ロンドン大会では約26万人の応募があったが、ボランティア文化が根付いていない日本では活動日数の長さがハードルになるとの見方もある。笹川スポーツ財団が16年に18歳以上の男女3千人を対象に行った調査では、年に1回以上スポーツボランティアをした人は6.7%にとどまる。希望率も13.9%と必ずしも高くない。
 東京都はこのほど、ボランティア参加を促す狙いで、休暇制度を設けた企業に20万円を助成する制度を始めた。従業員に年3日以上のボランティア休暇を与え、活動情報を伝えることなどが条件。今年度は計500社の申請を見込む。120社を想定していた6月は133社が申し込むなど関心は高そうだ。
 幅広い年代の中でも特に活躍が期待されるのが大学生。在学中に参画意識を高めようと、早稲田大はJSVNと協力してスポーツボランティア養成のための映像教材を作成し、今秋から映像を活用した授業を始める。組織委と協定を結ぶ全国約800の大学・短大などが希望すれば、教材は無償提供するという。
 武藤泰明・早大スポーツ科学学術院副学術院長は「ボランティアに関心のある学生は多いが、五輪のような大規模イベントではリーダーなど経験者も不可欠だ。3年後までに多彩な人材を輩出できれば」と意気込む。
 上智大は昨夏のリオデジャネイロ・パラリンピック期間中、教職員を現地に派遣し、会場周辺のバリアフリー状況などを調査した。今月5日には教職員や学生向けに「ユニバーサルマナー」の講座を開いた。
 今春の新入生約500人にアンケートを行ったところ、約7割が「20年大会でボランティアをしたい」と回答。語学を生かしたボランティアへの関心が高いが、20年大会は外国人だけでなく障害者ら様々な人々が集まる機会となる。「多様性が尊重される共生社会を目指し、学内から機運をつくっていきたい」(担当者)としている。
(鱸正人)

 学校現場でも東京五輪・パラリンピックに向け、競技を体験したり五輪精神を学んだりする「オリパラ教育」が熱を帯びてきた。東京都は全小中高校で年35時間のオリパラにちなんだ授業を促し、選手の「出張授業」の全校実施をめざす。国が東京以外で拠点地域を指定するなど、東京都以外にも活動が広がっている。
 7月18日、東京都板橋区の志村小学校で開かれたパラリンピック種目「ゴールボール」の体験学習。アイマスクを着けた子供たちが、重さ約1.2キログラムの球を勢いよく転がす。相手陣地の3人はボールの鈴の音を頼りに、体を目いっぱい横へ投げ出す。球を止めても間をすり抜けてゴールしても、静かに見守っていた子供たちから、ワッと歓声が上がった。
 男子日本代表で主将を務める信沢用秀選手の講演を聞いた後、球の止め方や転がし方を習い、実際のゲームを体験した。鈴木章太郎さん(11)は「音だけでは球が右に来るか左に来るかわからず難しかった。信沢さんは1人でたくさん止めて、すごい」と感心した様子。張源明さん(11)は「友達と助け合って球を止めた時はうれしかった」。
 体験を通じ、「パラ競技にどんな競技や選手がいるのか興味を持ち、大会も見に来てほしい」と信沢選手。同小の二瓶正男副校長(56)は「スポーツで障害者と同じ時間を過ごしたり、ハンディを肯定的に受け止める生き方を学んだり、パラスポーツの選手から子供が得られるものは大きい」と意義を強調する。
 東京都はこうした選手と子供が交流する事業を年300校で実施。学校独自に選手を呼んだ所も含め、開催年の20年度までに全公立校2300校で実施する目標を掲げている。
 東京都はオリパラ教育を「子供たちにボランティア精神や国際感覚、障害者理解を深めてもらうのが狙い」と説明する。16年度からは全公立学校で年35時間程度のオリパラ教育を行うプログラムを推進。都が作った事例集には体育や総合的学習のほか、「算数で陸上選手の速さを求める」「日本の伝統文化を英語で発信する」といった取り組みも載っている。
 このほか都はパラ教育に特化した読本を作成し、全校に配布。スポーツ以外の面でも、学校ごとに五輪参加国について学び、交流を深めるなど、取り組みを多様化させている。
 一方、国や大会組織委員会は地域の拡大を後押しする。スポーツ庁は今年度、五輪の試合会場ができる周辺自治体を含めた全国20府県・市を「中核拠点」に指定した。大学が各教育委員会に助言するなどの仕組みを通じ、各自治体でオリパラ教育の実施を促し、他自治体にも波及させる。
 また、組織委はオリパラ教育に積極的に取り組む学校に認証マークを与える取り組みを始めており、現在までに都内も含めて全国約3700校に広がっている。認証校には国際パラリンピック委員会(IPC)公認の教材や動画などを提供している。
 企業も教育プログラムの開発に積極的だ。パナソニックはオリパラを題材に社会課題について学べる教材を開発。富士通は地球環境問題の解決策を考える出前授業を、全国の小中学校で実施している。
[日本経済新聞朝刊2017年7月24日付]

最終更新:7/25(火) 7:47
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