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【著者に訊け】谷崎由依氏 初の長編小説『囚われの島』

7/25(火) 7:00配信

NEWS ポストセブン

【著者に訊け】谷崎由依氏/『囚われの島』/河出書房新社/1600円+税

 この国の村々で蚕が飼われ、欧米列強に伍する国力の獲得の任を担ったのは、つい100年ほど前のこと。だが昭和恐慌後、日本の製糸業は壊滅に追い込まれ、〈オシラサマ〉等々、蚕と人を巡る伝説も今では遠い御伽噺にしか聞こえないが、しかし本当にそうなのかと、谷崎由依著『囚われの島』を読むだに途方に暮れた。

 主人公は上司との不倫を持て余す新聞記者〈静元由良〉。ある日、なじみのバーで盲目の調律師〈徳田俊〉に絡み、サングラスの奥の素顔を覗いてしまった彼女は、後日仕事帰りの徳田を尾行、彼と急接近していく。

 実は彼と彼女は同じ島の夢を見、特に徳田はいつかその夢に殺されるのではないかと怯えていた。不吉な夢の暗示と、かつて〈蚕都〉として栄えたある島の伝説。職場や家族とのしがらみに悩む現代女性の今が交錯する、幻想的でいて看過できない、警告の物語である。

 文學界新人賞を受賞したデビュー作『舞い落ちる村』もそうだった。そこに描かれるのはいかにも前近代的な因習の村なのに、むしろ文明進化を絶対視し、実は昔も今も何一つ変わらない人間の本質から目を背けることの愚を穿つような、途轍もない現代性を感じさせるのだ。

「元々私は福井の生まれで、四世代同居の大家族だったんです。特に母が勤めに出ている間は曾祖母といて、よく昔話を聞かされたひいおばあさんっ子でした。

 私が大学に入った1997年に93歳で亡くなった曾祖母は、明治から平成までの100年をほぼ丸ごと生きた人で、今に繋がるこの国の歩みや時間の地層のようなものが、身近にあった。でも実家を出てからはそうした感覚とも切り離されてしまって、現代を生きながらどこかで原風景を求める私の志向が、作品にも無意識に現われているのかもしれません」

 物語は、ある島に閉じ込められ、〈とこしえの薄明〉の中で舟を待つ男の、夢の話から始まる。その舟には自分を救ってくれる女か、殺しに来た英雄が乗っているが、その理由は、〈ぼくの顔が化け物だからです〉と彼は言う。〈自分では確かめようがありません〉〈醜いのか化け物なのか、そこのところは文字通りの不明なのです〉と。

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