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働き方改革と人手不足深刻化の功罪

7/25(火) 14:40配信

NRI研究員の時事解説

<要旨>

政府が推進する「働き方改革」の大きな柱は、(1)長期労働時間の抑制、(2)同一労働同一賃金の2つである。その経済的側面に注目すると、企業の人手不足をより深刻化し、企業活動を供給面から制約してしまう、また人件費を高め企業の収益を圧迫してしまう可能性もあるだろう。人手不足傾向が強まることで、企業の省力化投資や業務効率化の取り組みが促されるというプラス面も指摘されるが、2013年末には既に人手不足傾向は明確になっていたが、その後も経済効率を高める効果は明確に確認できない。逆に供給制約がより意識されることで企業の成長期待が低下し、それが設備投資の抑制を通じて経済効率や潜在成長率を下げてしまう可能性や、賃金・物価上昇率の高まりを妨げてしまう可能性もあるだろう。生産効率、生産性上昇率の向上を促し、生活の質向上をもたらす実質賃金上昇へと繋げていくためには、供給制約の高まりを促す「高圧経済」政策ではなく、地道な構造改革を進めることこそが政府に求められる最も重要な役割である。

「働き方改革」の企業活動・収益への影響

政府が推進する「働き方改革」の大きな柱は、(1)長期労働時間の抑制、(2)同一労働同一賃金、の2つである。ともに、勤労意欲を高めることを通じて労働生産性向上効果を期待しつつも、社会厚生上の観点に基づいて進められている側面が強いと考えられる。他方で、その経済的側面に注目すると、人手不足が深刻な現在の環境のもとでの長期労働時間の抑制は、企業の人手不足傾向をより深刻化させ、運輸業、飲食業、建設業などを中心に、企業活動を供給面から制約しかねない要因でもある。また長期労働時間の抑制、同一労働同一賃金ともに、人件費を高め、企業の収益を圧迫する要因ともなりえる。

「雨降って地固まる」的な発想

一方、「働き方改革」が企業にもたらす経済メリットを指摘する向きも少なくない。第1に、労働時間の縮小と時間当たり賃金の上昇は、個人消費活動を刺激し、企業も売上高の増加という形でその恩恵を受けることになる、第2に、長期労働時間の抑制などの労働環境改善を通じて、企業は人材確保がより容易になる、第3に、労働生産性上昇を促す、などが指摘される。このうち第2は、個別企業にとっては人手不足対策に効果を発揮するとしても、企業が労働者を奪い合う構図の中で、経済全体でみれば人手不足対策としての効果は大きくは期待できない。

他方、第3については、さらに2つの側面に分けて考えることができる。一つ目は、長期労働時間の抑制などの労働環境改善、非正規社員の賃金上昇は、労働者の働く意欲(モラール)を高めて、労働生産性向上効果を発揮するという点。2つ目は、「働き方改革」によってより人手不足が深刻になることや、人件費が高まるという逆境を受けて、生産効率を高めるような企業の取り組みが促される点である。具体的には、省力化投資の増加や、人手不足をきっかけに、夜間配送など顧客に対する過剰サービスが是正されることが、労働生産性上昇をもたらすことなどである。ちなみに現状においても、人件費上昇への企業の対応としては、生産効率を高めるような取り組みがメインであり、値上げによる価格転嫁が実施されているのは、運輸業など一部に限られている。

深刻な人手不足問題が日本経済の効率性向上に結び付くのであれば、それはまさに「雨降って地固まる」的な状況である。

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