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南シナ海の一部海域に独自の新名称 インドネシアが中国に対抗

7/25(火) 18:50配信

ニューズウィーク日本版

インドネシア政府は7月14日、中国が権益を一方的に主張している南シナ海の南端部分にあたる海域に「北ナトゥナ海」という独自の呼称をつけ、自国の権益が及ぶ海域であることを内外に示した。中国は南シナ海の大半に「九段線」という海域を示して一方的に自国の権益を主張。これがフィリピンやマレーシア、ベトナムなど周辺諸国との領有権争いや資源の管轄権争い、安全保障上の問題にまで発展し、国際的にも非難を浴びている。

この南シナ海の南端部にはインドネシア領のリアウ諸島州ナトゥナ諸島があり、「九段線」の海域はその一部がナトゥナ諸島北部に広がるインドネシアの「排他的経済水域(EEZ)」と重複している。このEEZの範囲を含めた海域を今回インドネシア政府は「北ナトゥナ海」と正式に呼称すると発表し、国際水路機関(IHO)に正式名称としての登録を申請する方針を示したのだ。

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会見したインドネシアの海事調整省はすでに「北ナトゥナ海」という名称が入った新たな地図を作製したことも明らかにした。

同海域は海底に石油や天然ガスなどの資源が確認されているほか豊かな漁場としても知られ、中国をはじめベトナム、タイなどの漁船によるインドネシアEEZ内での違法操業が絶えず、インドネシア海軍、海上警察などが取り締まる。拿捕した一部漁船を見せしめのために無人にした上で海上において爆破処理するデモンストレーションを行ったこともある。

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海洋権益を守り、海洋国家としての開発を重要政策の一つに掲げるジョコ・ウィドド大統領は、ナトゥナ諸島に日本の築地水産市場をモデルにした水産資源の一大流通施設の建設構想を明らかにしている。その一方で、違法操業で拿捕したベトナム、タイ、中国の漁船員を収容する施設の拡充、警戒警備にあたる海上警察組織や海軍、空軍のための港湾施設、空港の建設・整備も進められている。

各国はそれぞれ命名して中国に対抗

南シナ海を巡ってはベトナムが自国の東方沖に位置する海域であることから「イーストシー(東海)」と独自の名称で呼び、フィリピンは自国西方の海域にあたる南シナ海を「西フィリピン海」と呼ぶなど、各国独自の呼称が入り乱れている。いずれの国も中国が南シナ海の南沙諸島、西沙諸島などの領有権を一方的に主張して軍の威力を背景に実効支配に乗り出し、さらに南シナ海のほぼ全域に及ぶ「九段線」を勝手に設定して権益を主張していることに対抗する措置としての命名といえる。しかし、中国側は「イーストシー」も「西フィリピン海」もこれまで一切認めていない。



インドネシア政府による「北ナトゥナ海」命名の発表に対しても7月14日に記者会見した中国外交部報道官は「インドネシアの主張の詳細は知らない」としながらも「南シナ海は国際的に認知された名称である。一部の国による名称の変更の試みは意味がなく、国際的な地名標準化の取り組みに反する」と批判した。

国際司法の裁定も無視する中国

南シナ海を巡ってはフィリピンが2014年にオランダ・ハーグに常設の国際仲裁裁判所に「中国の主張には法的根拠がない」として仲裁を求めた。その結果2016年7月12日に「中国の主張には法的根拠がなく、国際法に違反している」という判断が下され、国際海洋法的には中国は全面的に敗北した。

この判断を中国は「単なる紙屑に過ぎない」と無視を決め込んでおり、自国に都合の悪いことは一切認めないという中国流の対応に国際社会は強く反発している。

さらに中国が人工島建設や軍事施設構築などを同海域で進めていることに安全保障上問題があるとして米政府などは再三警告しているがこれも無視し続けている。7月22日には、西沙諸島のウッディー島に映画館もオープンした。

このため米海軍艦艇や空軍機が南シナ海で中国が領有権を一方的に宣言している島から12カイリ(通常は領海とみなされる)を航行する「航行の自由作戦」をオバマ政権に続いてトランプ政権でも継続している。

今回のインドネシアの「北ナトゥナ海」の命名は、実質的な独自の名称提起というよりはこうした国際社会や東南アジアの他国による中国に対する対抗策の一環の意味合いが色濃い。インドネシアは南シナ海では中国との領有権争いはないが、「EEZに関しては国際的な取り決めはちゃんと守るべきだ」という強いメッセージが込められている、といえる。

[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



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大塚智彦(PanAsiaNews)

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