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株価はいつ暴落するのか - 小幡績 転機の日本経済

7/25(火) 16:45配信

ニューズウィーク日本版

<日本の株価は割高だが、暴落は当面ない。核戦争級の驚きでもなければスパイラル的な売りはない。なぜか>

今の株価は高すぎる。特に米国は、かなりの収益増加が長期に継続しないと説明できない水準にある。日本の株価も同様に割高だ。ここでいう割高というのは、1株当り利益で見て、株価がその何倍か、といういわゆるPER(price to earning ratio)で見て、ということである。これが20倍を遥かに超え、米国では歴史的高水準、日本でもバブル期を除けば、非常に高い水準である。

しかし、それでも株価が暴落することは当面ないと思われる。

なぜか。

それは、現在の株価がバブルではなくなってきているからである。

日本の株価に限って議論してみよう。

2012年末、アベノミクスの登場とともに、正確に言えば、日本銀行がリフレ政策を採る、ということを期待して、株価はバブルになった。それ以来、2015年頃までバブルは続いたが、2016年年頭からの(2015年末からの)急落で、2016年4月以降、バブルは終わった。

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その後、トランプ政権誕生で、米国はトランプラリーとなり、米国の株式バブルが日本にも伝染し、ミニバブルとなったが、2017年4月以降、バブルは落ち着き、ミニバブルは終了した。

株価が高いからバブル、ではない

この議論に対して、すべての読者は違和感があるだろう。現在は、日経平均は2万円を超えている(今日は割っているが)。2012年末は日経平均1万円をやっと超えただけではなかったか。1万円割れの時期もあった。それがバブルで、今がバブルでない、とはどういうことか。

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答えは簡単で、バブルとは、株価が高いからバブルではないのである。株価水準は関係ないのだ。

この答えに対しては、もっと違和感があるだろう。違和感どころか、間違い、戯言だと怒るか、呆れるか、されるだけだろう。

確かに、経済学の教科書的な定義、あるいは世間的に流布している一般のイメージは、バブルとは、株価がバブっている、という表現に見られるように、異常に高いことを意味すると思われている。もう少し正確な定義をすると、「ファンダメンタルズからは合理的に説明できない価格水準が継続している状態」というのが、もっとも一般的で穏当な定義であり、もう少し現実に近い、本質を捉えた定義は、「ファンダメンタルズからは合理的に説明できない、持続不可能なほど高い価格水準が継続している状態」、というものだ。

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後者の定義が「正しい」のに使われないのは、論理矛盾だからだ。持続不可能な状態が持続している、という文字通りの矛盾がある。だから、バブルの実態を知らない、あるいは関心がない人々は、表面的に齟齬が生じない前者の定義を選ぶのだ。



これと類似して、バブルは崩壊して初めてわかる、バブルの最中は誰もバブルとはわからないから、バブルは止められない、という似非専門家のコメントがよく現れるが、これは120%誤りだ。バブルのときは、すべての投資家、バブル参加者は、それがバブルとわかっている。いや、むしろバブルであるからこそ、バブルに参加しているのだ。

バブルは儲かる。だから参加するのである。バブルのときは合理的に説明できない水準まで上がっている。だからこそ、さらに上がるのである。不合理なまでに高くなっているから、すぐに下がるので、バブルになど投資するのはおかしい、というのは、バブルも投資もわかっていない人々だ。合理性などというもの、ファンダメンタルズなどというものは、理論上の辻褄あわせで、現実に信じていれば、それは妄想に過ぎない。

投資というのは、上がるものを買う。それだけだ。

そうであれば、今上がっているものと、今下がっているものとで、どちらが上がりそうか、と思えば、前者に決まっている。後者だと思うのは、よっぽどのひねくれものだ。

素直に上がっているから買った人々が、買う決断をした決め手は何か。上がっているから、というのは表面の現象であり、なぜ上がっているのかを、身銭を切った人々は学者やエコノミストと違って真剣に考えている。それはもちろん誰かが買っているからだ。

人がいつ売ってくるか

株価が上がる理由はただ一つ。買いがあるからである。では買っているのは誰なのか。それが上がっている理由を探ることのすべてである。彼らが買っている理由が、ファンダメンタルに比べて割安だから、という理由であって初めてファンダメンタルズは関係してくる。しかし、現実には、日銀は日経平均2万円を割ったら買ってくる、と人々が信じて、2万円を割ったら買う、という行動をしていれば、こちらも同じ行動をとる、あるいは少しだけ先回りをするのが「正しい」(経済学的には合理的といわれないが)のである。

そういえば、経済学の本で「合理的な愚か者」というアマルティアセンの本があったが、文脈は違うが、合理的といわれる人々というのは、だいだい愚かである。現実を、事実を見ていないからだ。

さて、このように事実を常に見て、投資の意思決定をしている「現実の」投資家にとって、もっとも心配なことは何か。それは、今買っている人がいついなくなるか、つまり、今後買う人が出てこなくなること、もっと心配なのは、これまで買った人々が利益確定するためにいつ売ってくるのか、ということである。

これがバブルの基本構造だ。



つまり、バブルの定義(私の)は、「他の人が買っているから買っている」状態である。アカデミックに定義すれば、「他人の投資行動に依存して、自分の投資行動を決めている投資家が市場の大部分を占めている状態」となる。

だから、日経平均が1万円でも、アベノミクスの実態がわからなくても、みんなが買い始めたから、自分も出遅れないように、と慌ててみんなが買ったから、それはバブルであり、そして暴騰したのである。

今はどうか。

日銀トレード、と呼ばれる、日銀の動きを予想して売買する投資家は減った。米、欧、日と、金融政策の方向性はほぼ決まり、ニュースにならなくなったから、それで市場に動きは出ないから、それを狙っても値動きで儲けられないからである。

トランプトレードも終わった。トランプは失望に終わる、という当然のファクトがコンセンサスになってしまったからである。

売りのスパイラルはない

したがって、今の足元は退屈な市場だ。日銀は行きがかり上、まだETFを買うことになっているから、淡々と買って入るが、これも定常状態になってしまった。個人投資家は、投資の初心者たちが、遅まきながら、株式投資を始め、恐る恐る、あるいは無邪気に、無難な投資信託や個別銘柄を買っているだけだ。彼らは、愚かなことに、周りを見ていない。手元に資金があり、株式投資でもしないと、と思って買っているだけである。

だから今はバブルではない。バブルではないから、群集心理的に誰かが売ったから売る、下がったから売りのスパイラルが始まる、ということは当面は起きない。

もし、動きがあるとすれば、彼ら素人が驚愕するような、解釈の余地のない、事件か危機である。北朝鮮で戦争が起きるぐらいでは駄目で、核戦争級の事件がないと暴落はこないのではないかと思う。

小幡績

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