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よど号で読んだ『カラマーゾフの兄弟』 第3回<日野原重明さんが最後に伝えたかったこと>

7/26(水) 6:01配信

幻冬舎plus

日野原 重明

 2017年7月18日、日野原重明さんが105歳という年齢でこの世を去られました。
よど号ハイジャック事件に遭った後「これからの人生は与えられたもの、残りの人生は人のために使おう」と決意された日野原さんは、その言葉通り、旅立たれる最後の日まで、惜しむことなく人のために自分の命をつかい、生涯現役で命の尊さを伝え続けられました。
幻冬舎では、2016年の年末より日野原重明さんのご自宅へお邪魔し、書籍化のためのインタビューをしておりました。「これが私の最後の使命です」とおっしゃりながら、時にはベッドで横たわりながらも、深く優しく強い言葉をつむがれていた日野原さん。
次の世代の私たちへ、最後のその日まで日野原さんが伝えたかったメッセージの一部を、ご紹介させていただきます。

ハイジャック犯の彼らのことを知りたいと思いながら読んだ。

 よど号ハイジャックの現場に居合わせたとき、私は犯人から『カラマーゾフの兄弟』を借りたのですが、それには、心の平穏を保つためという以外にも理由がありました。
赤軍機関紙や金日成の伝記など、彼らが挙げたラインナップを見て、本を借りて読むことで、彼らの考えがわかるのではないかと思ったのです。

 殺されるかもしれない、どこに連れて行かれるかわからないかもしれないという緊張感の中でそんなことを考えられるのかと訝る人もいらっしゃるでしょう。
しかし、私はむしろその緊張感の中だからこそ、そんなことを考えたのではないかと思っています。
つまり、何もわからない未知の恐怖の中で、せめて犯人の人柄や思想がわかれば、それが一筋の光になるのではないかと、そう考えたのでしょう。

 『カラマーゾフの兄弟』そのものは、それ以前に読んだことがあったのですが、飛行機の中で三泊四日、ハイジャックを起こした彼らのことを知りたいと思いながら読むそれは、全く別の意味を持った作品のようでした。
犯人のことを知ると同時に、自分のことも見えてくるようでした。

 四日後に解放されるとき、機内は不思議な一体感に包まれていました。人生で一番長い四日間を乗り切った乗客はもちろん、犯人とも「がんばれよ」なんて声を掛け合ったのを今でも覚えています。それはなんともいえない光景でした。
緊迫した状態で長時間共に過ごしたことで犯人に愛情を抱いてしまう「ストックホルム症候群」というのがありますが、あるいはそれだったのかもしれません。

しかし、私は、彼らのことを理解しようとするその歩み寄りが、あの光景を生み出したのだと、そう信じているのです。

 * * *

 現在、日野原重明さんの書籍を準備中です。ぜひお待ちください。


■日野原 重明
1911年山口県生まれ。
1937年京都帝国大学医学部卒業。1941年聖路加国際病院内科医となる。以来、内科医長、院長代理、院長を経て、現在は、学校法人聖路加国際大学名誉理事長、聖路加国際病院名誉院長、一般財団法人ライフ・プランニング・センター理事長など。
1998年東京都名誉都民、1999年文化功労者、2005年文化勲章を授与された。

最終更新:7/26(水) 6:01
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