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米国の自然利子率と追加利上げ不要論の検証

7/26(水) 9:04配信

NRI研究員の時事解説

<要旨>

セントルイス連銀のブラード総裁は、安全資産(財務省証券)への需要が大きく影響しているとする米国自然利子率の独自の推計に基づけば、政策金利は既に中立水準にまで概ね達しており、これ以上の政策金利の引き上げは不要であるとの考えを示している。同氏の考えに従えば、現在の長期金利の水準も概ね妥当であり、低すぎるコナンドラム(謎)ではないことになるだろう。他方、FRBがバランスシートの圧縮を進める中で、財務省証券の需給が緩和し、自然利子率と政策金利の妥当水準が切り上がっていくと想定すれば、短期的な経済・物価環境とは独立に、米国長期金利に上昇余地が生まれることも考えられる。不確実性が高い自然利子率の水準の推計や先行きの見通しの変化が、今後の米国金融政策に影響を与える蓋然性は高く、それは長期金利の水準にも影響するだろう。

セントルイス連銀ブラード総裁の追加利上げ不要論

2017年5月に、アトランタ連銀が主催する金融市場コンファレンスで、セントルイス連銀のブラード総裁は、米国自然利子率に基づく自身の試算に基づけば、これ以上の政策金利の引き上げは必要ではない、との見解を示した(注1)。2017年中に合計で3回の政策金利引き上げが広く見込まれるなか、FOMC(米連邦公開市場委員会)での投票権を現在は持っていないものの、理論家として知られる同氏のこの意見は大いに注目されるところとなり、今後の政策議論にも影響することが見込まれる。

自然利子率と金融政策との関係

ブラード氏の議論を詳細に見る前に、ここで自然利子率と金融政策との関係について確認しておきたい。自然利子率とは、「需給ギャップに対して中立的な実質金利(名目金利から予想インフレ率をひいたもの)」と言うことができる。あるいは労働市場に焦点を当てれば、完全雇用に対応する実質金利と言うこともできるだろう。

需給ギャップが存在し、完全雇用ではない状態では、需要を高める金融政策が適切であり、それは実質政策金利を自然利子率よりも低い水準に誘導することで実現できる。逆に需給ギャップがプラスに転じ、労働需給が過度に逼迫している状況では、実質政策金利を自然利子率よりも高い水準に誘導することで需要を抑制し、需要と供給のバランスを回復させることが、通常は中央銀行に求められる。金融政策ルールとして広く知られた「テイラールール」でも、需給ギャップが中立的であり、またインフレ率が均衡値(目標値)に一致している安定した環境のもとでは、実質政策金利は自然利子率に一致するのである。

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