ここから本文です

「つくば」のモデルになったシベリアの町

7/26(水) 12:31配信

Wedge

AI技術の開発、米マイクロソフトの公式パートナー

 6年半ほど前に数学者たちが立ち上げた「ExpaSoft」はビッグデータの分析、人工知能(AI)のアルゴリズム開発を得意とする企業だ。「仕事の内容は本当に多様。ある電話会社向けには、特定の利用者が競合他社に移りそうかどうかを分析するツールを納品したり、石油の運送会社からは、物流データから業務改善策の提案を求められたりとか。数学の応用で、どんな分析のリクエストにも応えてみせる」。取材に対応した技術管理部長のセルゲイ氏は淡々とそう語る。

 筆者が訪問したときは音や画像のセンサーを使った人物認識システムのテスト中だった。この技術は、例えば住人が帰ってくると玄関を開けるなど、いわゆる「スマートホーム」の設備にも使われる。センサーが出力する数値の変化をどう処理して、いかに効率的に人物を見分けるか。同社の場合、声や顔で人を識別する際、サーバーなどの大がかりな装置を必要とせず、スマホのような小さなデバイスだけで処理できるのが強みだという。

 顧客はロシア国内だけでなく米国、EUにも多いそうだ。となると、客先を回ったり新規の仕事を取ったりするための営業拠点をモスクワあたりに置き、開発チームがシベリアで自分たちの仕事に専念する形が目に浮かぶ。だが、聞けばそうではなく、約30人の従業員は全員がノボシビルスク勤務。仕事は公式パートナーである米マイクロソフトなどから次々と舞い込むため、あえて営業拠点を開く必要がないとのことだ。経済制裁の影響も特に感じられないという。

 創業した数学者たちは地元ノボシビルスク国立大学の卒業生だ。仕事が増えているため後輩にあたる同大新卒者を積極的に雇い入れており、今従業員の平均年齢は25歳程度。なかには大学で教員をやりながら同社に在籍する人もいる。業績は好調で、直近の売り上げ規模は初年度の50倍だという。

つくばのモデルになった研究都市の存在

 実は上記のExpaSoftも、第1回で紹介したソフトラボNSK、金融技術センター(CFT)も、ノボシビルスク市内の同じ区内に位置していた。「アカデムゴロドク」と呼ばれる、市内中心部から車で30分強離れた森の中に広がる街である。区名の意味はずばり「学術研究の街」だ。ここではロシア科学アカデミーシベリア支部のノボシビルスク科学研究センターを始めとする38の研究機関が技術開発に従事している。また前回の記事から何度も出てくるノボシビルスク国立大学を筆頭に、50を超える教育機関も集まっている。街全体では研究に関わる職員は1万人以上、学生数は13万人近い。重点分野は上記のようなITのほか、バイオ、医療などだ。

 ちなみにこの街の成り立ちには東西冷戦が関係している。街が誕生したのは冷戦真っ最中の1950年代後半だ。それまで科学技術の拠点はやはり首都モスクワだったが、西側からの軍事攻撃を恐れたソ連政府が、あえてどの外国からも遠くて攻撃を受けにくいシベリアに技術集積地を移したとされる。日本のつくば学研都市も、このアカデムゴロドクをお手本にしたと言われている。

1/3ページ

最終更新:7/26(水) 12:31
Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2017年10月号
9月20日発売

定価500円(税込)

■特集  がん治療の落とし穴 「見える化」で質の向上を
・玉石混交のがん治療
・質を競い合う米国の病院
・効果不明瞭のまま際限なく提供される「免疫療法」の〝害〟