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オランダで認められた異色の日本人アナリストが語る、サッカーを進化させた理論体系「オランダメソッド」の逆襲

7/27(木) 20:54配信

footballista

グアルディオラのサッカー哲学のベースとなっているのは、リヌス・ミケルスとヨハン・クライフによって1970年代のオランダで誕生した「トータルフットボール」だ。今までの常識を根底から覆したサッカースタイルは、理論を徹底的に追求する異色の国民性がもたらしたものだ。

完成度が高過ぎるがゆえに、変化への適応に時間がかかっているが、その総本山アヤックスとオランダ代表で働く日本人アナリスト、白井裕之は「新しいオランダサッカー」の胎動を感じている。


インタビュー・文 浅野賀一(月刊footballista編集長)


独自メソッドの正体
“客観でサッカーをとらえ、主観で解釈”


──ずばり近年のオランダサッカー苦戦の理由は何でしょう?

「様々な理由がありますが、一つにオランダメソッドが他国に流出したことが挙げられます。サッカーを体系的に理論づけたオランダメソッドへの評価は高く、世界中から指導者がやって来ました。オランダは自分たちのメソッドを隠すことなくオープンにし、いろんな国に取り入れられた。世界のサッカーのレベルを押し上げるためにはいいことだったのかもしれませんが、オランダ独自の攻撃サッカーの優位性は失われました」


──バルセロナのメソッドも元はアヤックスですからね。逆に言えば、コピー可能な汎用性があるということですか?

「オランダサッカーの独特なところは、『サッカーとは何か?』というところからスタートし、客観的にこの競技を定義づけたところです。その土台がまったくぶれていないので、誤解がなくスムーズにコミュニケーションが取れます」


──オランダ人にとって、サッカーとは何なのでしょう?

「11人×2チーム、2つのゴール、ボールとフィールド、相対する方向、ルールが必要なスポーツです。これが根本にある大原則で、それがサッカー関係者全員に共有されています。だから、コーンを置いたドリブル練習や敵を置かないシャドープレーは、サッカーではないからサッカーは上達しない、という考え方に繋がっていきます。ゲームの目的は勝つこと。勝利条件は相手より1点でも多く取ること。そのために、攻撃的なプレーモデルが選択されています」


──そこがオランダサッカーの肝となる客観部分=前提条件なんですね。

「さらに言えば、次に来る概念として『攻撃』『攻→守の切り替え』『守備』『守→攻の切り替え』の4つのチームファンクションがあって、『攻撃』『守備』についてはさらにチームタスクがあります。『攻撃』のチームタスクは『ビルドアップ』と『得点する』です。『守備』は『ビルドアップの妨害』と『失点を防ぐ』。その次に来る概念がチームオーガニゼーション。ここで各選手のポジションと役割を明確にしています。日本でいうシステムですね。オランダでは[1-4-3-3][1-4-4-2][1-5-3-2]の3つの系統があると考えられています」


──アヤックススタイルの[3-4-3]はどこの系統に入るのでしょう?

「[1-4-3-3]系統です。相手FWやMFの枚数に応じてCBの1枚が中盤に上がった形という認識です。オランダではすべてのチームオーガニゼーションがこの3つに大別できると考えられています。ここまでがチームレベルの話で、個人レベルのサッカーアクションにも同じように明確な定義があります。ここまでを総合してサッカーの客観部分としてオランダ国内で共有しています」


──僕がオランダメソッドと考えていたアヤックススタイルは、客観部分の上に載る主観部分ということですか?

「その通りです。オランダサッカーにおける主観は3つで成り立っています。1つ目は戦略。ゲームメイク戦略とカウンター戦略の2つに大別できて、前者はさらにバルセロナのようなポジショナルプレーとダイレクトプレーに分けられます。2つ目はプレーモデル。チームとして勝つために実践する方法ですね。3つ目は戦術。これは対戦相手を想定してゲームにアジャストする方法になります」


──例えば、前線から激しくプレッシャーをかけるクロップ時代のドルトムントはゲームメイク戦略のダイレクトプレーと考えればいいですか?

「当時のドルトムントは相手ボールをいかに奪ってカウンターを発動させるかを狙っているチームでした。相手ボールを前提としているチームはカウンター戦略です。その中で『攻撃』『守備』『攻守の切り替え』のチームファンクションの狙いや目的が、ドルトムント固有のものを実践していると解釈できます。要するに、カウンター戦略と言ってもボールを持つ時間がありますので、そこで何を目的として選択・実行しているかはチームごとに異なりますよね」


──すべて明確な基準があるわけですね。

「そうです」


──一つ疑問なのは、コピーされたからといって本家の優位性が完全に失われるわけではないですよね。なぜ、世界の舞台で勝てなくなったのでしょう?

「クラブと代表で分けて考える必要がありますが、クラブに関しては経済格差が大きいです。ボール支配を前提としたサッカーなので、これだけ選手が毎シーズン引き抜かれるとプレーモデルを貫くのが困難になってきます。もう一つ、これは代表に関しても言えることですが、オランダサッカーは明確な基準があるからこそ相手に読まれやすい。しかも今は、そのメソッドが流出した状態です。さらなる革新的なアイディアが必要になりますね」


──それはかなり根本的な問題ですね……。

「ブラジル・ワールドカップでファン・ハールのチームが見せたように、自分たちのサッカーができない時にどうするかを考えるべきでしょう。あのチームはスペインとの対戦を想定して[1-5-3-2]のカウンター戦略で勝利しました。[1-4-3-3]のゲームメイク戦略ができなかったらお手上げではなく、ブロックを作ってカウンターなど勝つための方法を増やすべきなのかもしれません」

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最終更新:7/27(木) 20:56
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