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フィリップス曲線分析の陥穽

7/27(木) 13:59配信

NRI研究員の時事解説

<要旨>

人手不足が深刻化するなかで、あるいは需給ギャップが改善するなかでも、賃金、物価の上昇率が予想されたほどには高まらないことが、一種の謎(パズル)とされている。これは日本に限らず、世界全体でみられる現象である。この議論の背景には、需給ギャップと物価上昇率等との関係を示すフィリップス曲線がイメージされていることが多い。しかし実際には、「賃金、物価は様々な要因によって決まる」のである。その中でも、足もとの賃金・物価上昇率の高まりを妨げているのは、成長期待の低下であろう。当面、人手不足がさらに進み、需給ギャップが一段と改善するとしても、成長期待が容易に高まらない環境の下では、賃金・物価上昇率が急速に高まるといった事態は想定し難く、物価上昇率が大方の予想を下振れ続ける可能性が高いと見ておきたい。

賃金、物価の謎(パズル)とフィリップス曲線

人手不足が深刻化するなかで、あるいは需給ギャップ(一般的には(現実のGDP-潜在GDP)÷潜在GDP)が改善するなかでも、賃金、物価の上昇率が予想されたほどには高まらないことが、一種の謎(パズル)とされている。これは日本に限らず、世界全体でみられる現象である。この際、「予想されたほど」の背景には、フィリップス曲線がイメージされていることが多い。フィリップス曲線とは、(1)失業率に代表される労働需給関係あるいは需給ギャップと、(2)賃金上昇率あるいは物価上昇率との関係を示す一種の経験則である。失業率が低下する、あるいは需給ギャップが改善するほど、賃金上昇率あるいは物価上昇率は高まる傾向がある。

物価、賃金の見通しが議論される際に、このフィリップス曲線が注目される傾向が強い背景には、「賃金、物価は需給関係で決まる」との認識が一般的であることが挙げられるだろう。しかし実際には、「賃金、物価は様々な要因によって決まる」のである。その他の要因に大きな変化がない場合にのみ、需給関係と賃金・物価との間に比較的安定した関係が観測され、フィリップス曲線分析による物価、賃金の予測が有効となるに過ぎないのである。

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