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雑誌等の企業別年収比較はアテになるか? --- 荘司 雅彦

7/27(木) 16:44配信

アゴラ

経済誌等を中心に、頻繁に企業別の年収比較が記事として出ています。「〇〇商事、平均年収2000万円、従業員平均年齢41歳」というふうに、企業別に記載されてます。総じて、テレビ局や総合商社の年収が高いようですが、時々「おや?」という企業名が出てきたりします。

こういった比較は、全体として「高給」か否かを判断するには役立ちますが、個々の従業員の待遇とは必ずしも直結しないのです。

日本の大企業は年功賃金制だとよく言われますが、昨今では徐々に賃金体系を変えている企業が増えています。自分の働いている会社の給与体系をよく知らない人もいると思うので、以下にビジネスレーバーモニター特別調査の結果(http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2015/03/032-033.pdf)を挙げてみました。

回答企業が41社なのでサンプル数としては不足していますが、「職位別に見た月齢賃金のウエイト」は、以下のようにドラスティックなものです。
年齢・勤続給 職能給  職務給、役割・職責給  成果・業績給
部長級   12.3%    22.6%    46.7%     18.3%
課長級   14.0%    26.0%    42.3%     17.7%
課長代理級 28.2%    38.3%    26.3%     7.3%
係長級   27.5%    37.2%    25.0%     10.3%
一般    36.9%    33.9%    21.2%     8.0%

大雑把に言うと、左の2つ(年齢・勤続給と職能給)が年功賃金的性格を持ったもので、会社都合による一方的な減額はまず認められません。

これを見ればおわかりのように、課長級だと年功賃金は全体の40%となり、企業業績が悪化して役職を剥奪されると、給与が半分以下になる可能性もあります。そうでなくとも、同期入社との賃金格差が大きくなり、部長級になると職務や役割・職責給だけで50%近くになっています。

いわゆる平社員である「一般」でも、年齢・勤続給の割合は約4割に過ぎず、昇進が遅れれば給与に大きな差が付いてしまいます(もっとも、職能給は一度上がれば原則として下げられませんが…)。

さらに、ボーナスとなると経営サイドの裁量が大きくなるので、会社全体の業績や人事考課によって大きな差が生じます。裁判所も、賃金制度の変更については(整理解雇のような厳格な態度ではなく)「必要性」「相当性」「組合との交渉経緯」などから合理性を肯定するものが多いようです。

この賃金制度、業種業態によってかなり異なるのではないかと、私は推測しています。
かつて、長銀から野村投信に転職した際、月例給与は下がったもののボーナスは上がりました。年収全体としては若干のダウンだったような気がしますが、給与とボーナスの比率の違いに驚きました。当時の証券会社のボーナスの金額の多さは有名でしたが、経営サイドが自由にアップダウンできるボーナスの比率を高めることで人件費を巧みに調整できていたのです。

また、当時の銀行には社員食堂があり、一食の自己負担は200円くらいでした。社宅が完備されていたことも併せ考えると、銀行員高待遇の時代だったと言えるでしょう。

以上のように、給与とボーナスの比率と賃金体系、さらには福利厚生まで調べないと、実質的な年収比較はできないのです。

ところが、就活の際にはこのような情報開示はほとんど行われず、待遇面の質問をするとマイナス評価をされることもあるようです。

就職して働くことは、れっきとした労働契約の締結であり履行です(継続的契約関係と一般には言われています)。

にも関わらず、もっとも重要な金額的な条件を明らかにしないのは、全近代的な「細けえこと言うんじゃねえ。悪いようにはしねえから任しときな!」という義理人情のノリでしかありません。

「働き方改革」が叫ばれていますが、改革の前提となるのはシステムの透明性です。契約内容の透明性をもっと高めることが、「働き方改革」の推進には不可欠だと私は考えています。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年7月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログ(http://ameblo.jp/masahiko-shoji/)をご覧ください。

荘司 雅彦

最終更新:7/27(木) 16:44
アゴラ

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