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「4時間後に紙幣が使えなくなる」インド経済をマヒさせた衝撃宣言

7/27(木) 6:00配信

ダイヤモンド・オンライン

 昨年11月8日の午後8時、インドのナレンドラ・モディ首相は衝撃的な宣言を行った。1000ルピー札と500ルピー札は4時間後(9日午前0時)に法的通用力を失うという宣言だ(1000ルピーは現在のレートで約1750円)。

 それらの紙幣は、新しい2000ルピー札と500ルピー札に交換可能であること、同年12月30日までは銀行口座に入金できるとされた。政府の最大の目的は、地下経済のお金をあぶり出し、汚職を防止することにあった。

 しかし、この政策は人々の生活にすさまじい大混乱をもたらした。先日、当時ムンバイに住んでいたインド人女性に話を聞く機会があったのだが、この話を思い出すと怒りに身が震える様子だった。なぜなら、政府の事前の準備があまりにおざなりだったからだ。本来の目的とは異なって、貧しい人々ほど窮地に陥ったという。

 第一に、法的通用力を失ったその2種類の紙幣は、流通紙幣の86%を占めていた。しかし、銀行に口座を持たない人がインドには54%もいた(インド紙「ザ・ヒンドゥー」2017年1月28日)。

 その人々は蓄えを現金で持っていたわけだが、それが市中では突然、無価値になってしまったのである。銀行に行けば旧紙幣を新紙幣に交換することができたが、その額は厳しく制限された(制限の額は、当初は1日当たり、後に1週間当たりに変更)。

 銀行には連日、紙幣交換のために何時間も並ぶ長蛇の列ができた。新紙幣を手に入れないことには生活できなくなってしまうからだ。都市部はまだしも、地方では銀行の店舗が10万人当たり7店しかない(オンラインメディア「ヴァイス・ニュース」16年12月1日)。

 遠くの銀行に行って、長時間並ばなければならなかった人は、仕事ができない状態に直面した。ガソリンスタンドや政府系病院、公共交通機関などは、例外措置として旧紙幣がしばらく使えたものの、インド経済は一時、各所で動きが不活発になってしまった。

 一方、インド政府が本来狙っていたアングラマネーのあぶり出しには、あまり効果がなかったといわれている。15~16年の調査によると、インドで不正に蓄財された資産の保有形態としては、現金はわずか6%でしかなく、株式や不動産、宝石などを他者の名義で購入していたケースが圧倒的だったという(米誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」17年3月号)。

 また、昨年11月9日以降、インドの欧米系高級ブランド店では、帳簿上は8日以前の扱いにして、富裕層に旧紙幣での商品の購入を許していたといううわさもある(後で換金しやすい商品が売れたもよう)。

 モディ首相はこの政策では激しい批判を浴びたが、他の政策では評価されているため、不思議と支持率は落ちていない。また、現在では経済面での混乱はひとまず落ち着いた。しかし、通貨の法的通用力が突然失われることに対する恐怖におののいたインド国民は、非常に多いようだ。これをきっかけに、インドではスマートフォンを使った資金決済が伸びているが、インド国民のスマホ保有率はまだ30%程度だという。

 先進国でも、犯罪資金への流用を防ぐために高額紙幣を廃止すべきではないか、という議論が活発に行われている。実際、欧州中央銀行(ECB)は18年末に500ユーロ紙幣の発行を停止する。しかし、インドのような乱暴なやり方は見習ってはいけないといえる。

 (東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

加藤 出

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