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無名の独立リーガーに野球人生を完全燃焼させた、井口資仁の大きな背中

7/28(金) 11:20配信

webスポルティーバ

「そりゃ、もう衝撃的でしたね」

 矢島正徳は“あのとき”のことをこう振り返る。もう10年以上も前のことだ。

■ドラフト最後のチャンスにかける男

 野村克也を監督に迎えて、社会人野球の強豪チームにのし上がったシダックスで投手としてプレーしていた矢島だが、のちにプロに進む武田勝(元日本ハム)や野間口貴彦(元巨人)らの間で埋没し、力を出し切れないまま引退勧告を受けた。だが矢島はそれを受け入れることができず、台湾やオランダまで出向き、その後もマウンドに立ち続けた。しかし26歳を迎えた2004年に「これが潮時かな」と思い、ユニフォームを脱ぐ覚悟を決めて帰国した。

「トレーナーになろうかと思って……修業しようとしていたときに、井口(資仁)さんの自主トレに来ないかって、声がかかったんです」

 アルバイトで行なっていた野球を題材にしたテレビドラマの演技指導が縁で、当時、井口が契約していたプロダクションから「アシスタントとして自主トレに参加しないか」という話が舞い込んだ。これに矢島は乗った。

 このシーズン、井口は福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)の主軸として、打率.333、24本塁打、89打点の成績を残し、メジャー挑戦を表明。球団と交わした覚書に則って自由契約となり、シカゴ・ホワイトソックスに入団した。

 新天地で羽ばたく準備の自主トレは、12月半ばから沖縄で行なわれた。呼ばれるがまま那覇空港に降り立った矢島の前に現れた井口は、近寄りがたいオーラを放っていた。

「それまでも格上の選手と対戦したことはありましたし、チームメイトにプロに行ったヤツはいましたけど、井口さんクラスの選手を目の前にするなんてことはなかったですから。もう緊張しちゃって……」

 空港のロビーであいさつをすると、井口は「よろしく」とだけ言って、車に乗り込んだ。

「話しかけてくださるのですが、やっぱり別世界の人ですから。いろんな意味で距離感は感じていましたね。バッティングピッチャーもさせていただいたんですけど、イップスになりそうなくらい緊張しました(笑)」

 井口を慕ってやってきた数名のプロ選手も参加してのトレーニングが始まろうとしたとき、チーフトレーナーが矢島に声をかけた。

「見ているだけもなんだし、どうせなら一緒にやれば。今年まで現役だったんだろ」

 何を思ったのか、チーフトレーナーはユニフォームを脱ぐ覚悟をしていた矢島を“現役復帰”させたのだ。正直、どういう意図で声をかけたのかは今もわからない。ただ、矢島自身は現役への未練が体中からにじみ出ていたからだろうと思っている。

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