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対北朝鮮「戦争」までのタイムテーブル 時間とともに増す「脅威」

7/28(金) 17:45配信

ニューズウィーク日本版

7月20日、米CNNは米政府当局者の話として、「北朝鮮が新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)もしくは中距離弾道ミサイルの発射実験を準備しているようだ」と報じた。その情報の信ぴょう性は不明だが、北朝鮮は今後も恐らくさまざまなことをやってくるだろう。

北朝鮮は、今春から立て続けにミサイル発射実験を繰り返している。それに対して、米国は空母を日本海に展開するなどし、「米軍が先制攻撃をするのではないか?」との懸念が広く報道された。

その間、北朝鮮の脅威については、新聞でもテレビでもさまざまな視点からの見方が紹介された。しかし、それこそ諸説が飛び交う状況で、実際のところは分かりづらい。その最大の理由は「根拠の希薄な臆測」が非常に多くみられるからだろう。

そこで本稿では、北朝鮮の核ミサイル問題を検討する上で留意すべき事項、特に何が「判明している事実」で、何が「推測」なのかを考え、そこから北朝鮮核ミサイル問題の今後の展開を予想してみたい。

在韓米軍撤退が北朝鮮の「交渉」

まず、北朝鮮サイドの「意図」は何か?

ここで分かっているのは、「北朝鮮は一貫して核とミサイルを開発してきた」という「事実」である。その理由に関して、北朝鮮自身は声明などで常にこう明言している。
 
「米国に対抗するため、自分たちも核大国になる」
 
つまり、敵国である米国に攻め滅ばされないために、対抗策として核ミサイルを手にする。それは自衛のための当然の権利だという言い分である。

これは核不拡散という国際的な利益に反する言い分であり、それがために国連安保理でも、北朝鮮は核実験と弾道ミサイルの技術を使ったいかなる発射実験も禁止されている。北朝鮮も国連加盟国である以上、安保理決議には従う義務がある。この点で、北朝鮮の言い分は通らない。

しかし、北朝鮮側からすれば、安保理決議よりも、自国(より正確には「金正恩独裁政権」)の安全保障が優先される。金正恩政権側の安全保障では、自分たちよりはるかに強大な敵国である米国から自分たちを守るためには、決定的な対米抑止力、すなわち米国本土にまで届く核ICBMを持つことが最優先される。良い悪いで言えば当然悪いに決まっているが、北朝鮮が独裁政権を維持するためには実に合理的な政策でもある。

従って、北朝鮮はこれからも核ICBM開発を止めることはないだろう。彼らはいまだ米国本土、特に心臓部であるニューヨークやワシントンに届く核ミサイルを保有していない。それを手にするまでは、金正恩政権の安全保障は確立しないのだ。

こうした北朝鮮の「目的」について、根拠が希薄なままメディアで定説化しているものに、「北朝鮮の狙いは米国と直接交渉することであり、その上で米国から体制保証を取り付けることだ」との説がある。こうした観点から派生した見方には「北朝鮮は米国を振り向かせるために挑発的に暴れているだけ」といった見方もしばしば見かける。

【参考記事】ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由
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これは、北朝鮮当局がこれまでもさまざまな機会に米国との直接交渉に乗り気な姿勢を見せてきたことが背景にある。しかし、それをそのままうのみにするのは間違いだ。

北朝鮮サイドの「交渉」とは、単に言葉だけで金正恩体制を認めるということだけではく、在韓米軍の撤退を含む。北朝鮮側からすれば、米国が北朝鮮と戦争をするつもりがないなら、韓国に駐留する意味はないということになる。そんなことを米国がのむわけもないから、直接交渉に何の期待もできないことは、北朝鮮も認識していることだろう。仮に体制保証が認められて和平条約が締結されたとしても、米軍が韓国にとどまるなら、単なる言葉だけの「和平」を北朝鮮も全面的に信頼するわけもあるまい。

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実験の狙いは「技術開発」

さらに、前述した「北朝鮮は米国を振り向かせるために挑発的に暴れているだけ」との見方は、根拠がない上に、北朝鮮の行動を見誤ることにつながり、危険でもある。北朝鮮と対話すれば、彼らは満足し、安心し、核ミサイル開発を止めてくれるかもしれないとの期待につながるだろうが、その対話の間にも北朝鮮は着々と核ミサイル戦力を強化していく。その過程を事実上、放置することになりかねない。

「挑発しているだけだから、放置すればよい」との意見も散見するが、これこそ北朝鮮にとっては最も好都合な話と言える。報道では、しばしば北朝鮮が核実験やミサイル実験で米国を「挑発」していると報じられるが、「挑発」というのは、北朝鮮がそれを行うことで米国がより強硬な手段に出てくることを狙って実施することを意味する。しかし、それは北朝鮮にとっては全く利益が無いどころか、逆に不利益だ。北朝鮮にとっては、核実験もミサイル実験も粛々と行って技術を開発し、自らの戦力を強化することが利益であり、むしろ米国にはスルーしてもらう方が助かる。

北朝鮮はさかんに米国を威嚇するような声明を発しているが、あれは米国に「どんどん攻めてこい」と挑発しているのではなく、逆に「自分たちを攻撃したらただでは済まさないから、絶対に攻撃してくるな」というように「けん制」しているにすぎない。金正恩朝鮮労働党委員長についてはしばしば「狂った独裁者が暴発している」と指摘されるが、これまでの施策をみると、核ミサイル開発という対米抑止力確保を優先しており、むしろ体制維持を目的に合理的(悪い意味で)な施策を一貫して取っていることが分かる。

「超」が付く個人独裁体制なので、金正恩の考え一つで政策は変わるから、将来の予想に「絶対」は無いが、金正恩体制が体制維持を最優先し、そのために核ICBM開発にまい進している事実から考えると、体制の崩壊に直結する対米戦争を自分から仕掛ける可能性は極めて低い。つまり、北朝鮮側から戦争になることは考えにくいということになる。

【参考記事】世界最恐と化す北朝鮮のハッカー

新たな人工衛星打ち上げも宣言

では、米国側はどうか? 前述したようにこの春、一部の報道では今にも米国が先制攻撃しそうだとの論調も少なくなかったが、実際にはその可能性は無かった。米軍の行動も、開戦を意識したような本格的なものではなく、米政府当局も先制攻撃を明言していない。単に「あらゆる選択肢を排除しない」と言っただけである。現在もトランプ政権は、北朝鮮問題に対しては中国に圧力をかける段階にとどまっており、近い将来に戦端を開く可能性は皆無と言っていい。つまり、現時点では北朝鮮も米国も、戦争に打って出る可能性はまずない。

では今度はどうなっていくのか?



北朝鮮側は、今後も間違いなく核・ミサイルの実験を重ねていくだろう。ミサイルについては、液体燃料型ミサイル「火星」シリーズのICBMの射程延長に加え、同時に開発中の固体燃料型ミサイル「北極星」シリーズのICBM化(北極星3)の実験にもいずれは乗り出す。

6回目の核実験もいつでも実施できる状況にあるとみられるが、より国際社会の反発の大きい核実験に関しては、タイミングを見計らっているという段階ではないかと思われる。次の核実験は恐らく、従来の10キロトン程度の爆発力からさらに威力を強化したブースト型(設計にもよるが、従来の10倍規模の威力もあり得る)の可能性が高いが、他にも既に実施したか否か不明なウラン型の実験を新たに行う可能性もある。

一つ気になるのは、北朝鮮が昨年来、さかんに「新たな人工衛星を打ち上げる」と宣言していることだ。しかも今度の高度は、前回の500キロメートルの衛星よりも高い、3万6000キロメートルに静止衛星を打ち上げるとしている。つまり、それだけ推力の大きなロケット・エンジンを開発しているということだ。

そしてそれが実行された場合、弾道ミサイルの技術を使った打ち上げを禁ずる安保理決議違反として制裁が科されることになるが、それを「平和目的の宇宙開発に対する米国の理不尽な敵対行為」と見なし、それを口実に核実験という可能性もある。

期限設定なら衝突危機近づく

いずれにせよ北朝鮮は、体制維持のために最優先している核・ミサイル開発を今後も続けるだろう。それを止める恐らく唯一の手段は、米国が本気で北朝鮮を軍事攻撃するそぶりを見せることだ。北朝鮮の最優先事項が体制維持であれば、北朝鮮は米国との戦争を回避するしかなく、その時になって初めて妥協の可能性が生じる。

しかし、米国はまだまだ状況が煮詰まっていない。報道ではしばしば「核実験やICBM実験が米国のレッドライン」と伝えられているが、米国は一度も「新たな核実験やICBM実験が行われたら北朝鮮を攻撃する」と明言していない。米国が自衛権で攻撃できるとすれば、北朝鮮に実際に攻撃された時点だが、北朝鮮が行っているのはあくまで新兵器開発の「実験」である。

従って、北朝鮮がこのまま核・ミサイルの開発を推し進め、それを制裁などの圧力で阻止できないとなれば、米国は軍事的には在韓米軍の増強や空母部隊の増派などで臨戦態勢を強化するとともに、政治的には少なくとも国際社会である程度の同調を得たうえで、期限を切って北朝鮮に妥協を迫るなどの手順が必要になる。そうした状況に至るまではまだまだ時間がかかるが、このままではいずれそうした本当の危機に向かっていくことにならざるを得ない。軍事衝突の可能性は現時点ではほとんどないが、問題はただ先送りされているだけとも言える。

いや、問題はさらに複雑だ。少なくとも現時点で戦争の可能性がないからといって、単に「良かった」ということではない。時間の経過とともに、北朝鮮はどんどん核爆弾を増やし、ミサイルの数も増やす。もしも将来戦争になった場合、その危険性は後になるほど大きくなるということだ。

それでも、何とか「駆け引き」で戦争が回避されているうちはまだいい。問題は、北朝鮮のような超独裁国家は、未来永劫(えいごう)に安定しているわけではないということだ。ごく少数だけが利益を得る独裁体制は、常に内部からの潜在的な反乱圧力を受ける。もちろん外部から受ける圧力もあるが、いずれにせよ人類の歴史は、次々にさまざまな独裁体制が打倒されてきた歴史でもあった。

単に今現在、政権が崩壊する兆しがうかがえないとしても、北朝鮮の独裁体制はいずれ終焉(しゅうえん)するだろう。その時、これほどの抑圧体制の崩壊となれば、平和的な権力移譲などは可能性が低く、アナーキー状態に陥る可能性が極めて高い。その時が将来になればなるほど、混沌と化する北朝鮮に、より大量で高性能の核ミサイルが放置されることになる。

私たちの前に出現した「北朝鮮の核ミサイル武装」とは、そういう脅威に他ならない。

[執筆者]
黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)
ジャーナリスト
1963年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在はフリーのジャーナリスト。専門は安全保障、情報戦、中東情勢、東アジア情勢など。著書に『イスラム国「世界同時テロ」』(KKベストセラーズ)『北朝鮮に備える軍事学』(講談社)などがある。

※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。

黒井文太郎(ジャーナリスト ) ※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載

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