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部屋に散る不気味な砂――幽霊屋敷の真の恐怖

7/28(金) 11:15配信

Book Bang

 よそのお宅に招かれたとき、真新しい家の真新しいリビングの床にうっすらと砂が積もっていて、しかも住人が気にも留めていない様子だったら? 驚きはするが、黙っているだろう。本書の語り手の一人である笹倉果歩のように。怪異に巻き込まれるなんて思わずに。日本ホラー小説大賞受賞作『ぼぎわんが、来る』や山本周五郎賞候補作『ずうのめ人形』で注目を集める気鋭の最新作は、怪談では定番の幽霊屋敷の恐怖をどこにでもありふれている砂を用いて増幅させた長編小説だ。

〈母親は家におるのがええと思う〉という夫の要望で仕事を辞めて地元を離れたものの、子供ができる予定もなく無為な毎日を過ごしていた果歩は、偶然再会した幼なじみの新居へ遊びに行く。彼女を待ち受けていたのは、歩くと足の裏に茶色い砂粒がつく部屋で普通に生活する異様な家族だった。やがてその家は、もう一人の語り手である「僕」の人生を狂わせた幽霊屋敷だということが明らかになっていく。

 小学生のころ「僕」と一緒に幽霊屋敷を探索した少女が声を聞いたという〈ししりば〉とは何なのか。なぜ果歩の幼なじみはおかしなことばかり起こっているのに平然としているのか。読み進めていくうちに、幽霊がいようがいまいが、異常を日常にしてしまう家という場所そのものが恐ろしくなる。蟹しゃぶの鍋の出汁の底に砂が溜まっているシーンには慄いた。〈ししりば〉の正体にも意表を突かれる。

 澤村伊智の創造する化け物は、構築されたシステムと明確な目的を持っている。だからある程度は起動の仕組みが理解できるのだが、次第に暴走して不可知の領域へ到達するところが魅力だ。わかる快感とわからない緊張感が拮抗しているために、物語に対する集中力が途切れない。

 気がつけば砂絵のように並べられた文字に意識を侵蝕されている。頭蓋骨の内側でザリザリという音が鳴っている。

[レビュアー]石井千湖(書評家)

新潮社 週刊新潮 2017年7月27日号 掲載

新潮社

最終更新:7/28(金) 11:15
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