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“竜巻の尺度”になった日本人天才気象学者、その軌跡

7/28(金) 11:00配信

Book Bang

 1997年6月、『天気に捧げた我が人生』という特番の制作で、オクラホマ大学を訪れた。当時、ここは竜巻研究の一大拠点。映画『ツイスター』のモデルにもなった、「トルネード・チェイサー」と呼ばれる研究チームが活動していた。彼らはドップラー・レーダーなどの機器を満載した車で命がけの観測を行う。そのデータは、気象庁が出す竜巻予報や避難勧告に生かされていた。

 取材した佐々木嘉和名誉教授やジョス・ワーマン助教授との会話に、「F」という言葉が何度も出てきた。これは竜巻の強さを示す尺度で、F0からF5まである。たとえばF2は毎秒50~69メートルの風速で、列車脱線や大木倒壊が起きる規模だ。この「Fスケール」の生みの親がシカゴ大学の藤田哲也博士であり、Fは藤田の頭文字からきていた。

 本書は、藤田哲也という天才気象学者の軌跡を追ったものだ。しかも「Mr.トルネード」とまで言われた竜巻研究の陰に隠れた、もう一つの偉大な功績にスポットを当てている。それは70年代に多発した飛行機事故の原因究明だ。着陸直前、突然コントロール不能に陥った事故の背景に、「ダウンバースト」という猛烈な下降気流があることを突きとめたのだ。その後、様々な対応策が講じられるようになり事故は激減していく。

「Fスケール」、そして「ダウンバースト」の藤田哲也。ノーベル賞級の人類への貢献であり、日本でその名が知られていてもおかしくない。しかし、なぜかほぼ無名だ。著者は彼の歩みを丹念に追い、「Mr.トルネード」が日本だけでなく、アメリカの学界においても微妙な位置にあったことを明らかにしていく。そこには、あまりに独創的な研究方法とユニーク過ぎる研究者の姿がある。

 98年に藤田が没してから約20年。本書によって、ようやく正当な評価と共に実像が示された。あらためて、「こんな日本人がいた」事実に驚かされ、勇気づけられるのだ。

[レビュアー]碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)
1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年にわたりドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授、東京工科大学教授などを経て2010年より現職。専門は放送を軸としたメディア文化論。著書に「テレビの教科書」ほか。毎日新聞、北海道新聞、日刊ゲンダイなどで放送時評やコラムを連載中。[公式サイト]碓井広義ブログ

新潮社 週刊新潮 2017年7月27日号 掲載

新潮社

最終更新:7/28(金) 11:00
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