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日本よ、豪州を侮るなかれ。コンフェデ杯で善戦…準備万端でロシア行き懸けた最終決戦へ

7/29(土) 9:58配信

フットボールチャンネル

 来月に控えるロシアW杯アジア最終予選は、日本代表にとって非常に重要なものとなる。それはライバル・豪州にとっても同じだ。しかし、2015年にアジア王者を勝ち取った豪州代表は夏にコンフェデレーションズ杯でチームを強化し、ロシア行きをかけた日本戦に向けて準備を進めてきた。新システム導入から不安ばかりが叫ばれたチームはどのように変わってきたのか。豪州事情に精通した現地在住記者が分析する。(取材・文:植松久隆)

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●豪州代表、コンフェデ杯で完成度高め日本戦へ

 豪州代表への関心がにわかに高まっている。それもそのはずだ。8月31日のW杯最終予選の日豪戦は、日豪両国にとって勝たなければいけない大事な試合なのだから。最終予選の組み合わせが判明して以来、この試合こそ天王山になるだろうと予想はついたが、今の日本の置かれた状況を考えれば、ここ数回の対戦の中でも際立って重要な一戦となる。

 そんな日本での関心の高まりの中で、6月にロシアで行われたコンフェデレーションズカップ2017にアジア王者として臨んだサッカルーズ(オーストラリア代表の愛称)は、各大陸王者の強敵相手に“善戦”を見せた。それを受けて、日本では「豪州は侮れない」という声がさらに高まっていると聞く。

 確かに日本側から見ると、アジアの異端・豪州とこのタイミングでぶつかるのは嫌だろう。しかも、その次がアウェイでのサウジアラビア戦だけに、何とかホームでW杯出場を決めたいの気持ちも殊更強まる。

 一方、豪州はというと、最終節にホームでのタイ戦を残していることもあって、アウェイの日豪戦に「何としても勝たねば」という気持ちが日本ほど強いとは言えない。ただ、グループ首位の難敵・日本相手にアウェイで勝ち点を得て、最終戦にも勝利すれば、一気に自力通過、しかも首位通過の目すら残る。その意味では、豪州も「負けない戦いにくる」に違いない。

 そんなサッカルーズの現有戦力を、コンフェデ杯の戦いぶりを交えながら振り返っていこう。

 現在のシステムは、ダブルボランチに両サイドハーフを配し、前線は1トップに2シャドーが基本形の3-4-2-1。この新しいシステムの導入は、国内でも驚きをもって迎えられた。オランダ流が根強い豪州フットボールの伝統的スタイルである、両ウィングを配しての4-3-3(4-3-2-1などボランチの枚数で多少のバリエーションあり)という定型からの脱却に、選手、スタッフ、ファン、メディアは戸惑いの色を隠せなかった。

 そこに来て、前回のコラムで書いたようなシステム変更後のパフォーマンス低迷もあって「コンフェデ杯で世界の強豪に大敗を喫して自信喪失するようなことがあれば、残りの大事な最終予選に悪影響を及ぼすのでは」というファンの不安は、猜疑心へと変わりつつあった。実際、コンフェデ杯の前には、選手の口からも不安げなコメントが聞こえてくるなど、しっくりこないままに“プレW杯”を迎えた。

●ブレなかった指揮官。コンフェデ杯で強豪相手に健闘

 それでも、アンジ・ポスタコグルー監督は外野の声に流されるほどやわではなかった。メディアに対し「(コンフェデ杯で)新システムに慣れ、さらに精度を上げていかなければならない」と語り、強敵相手に新システムの馴らし運転を続ける姿勢を明確にした。目先の結果を追うために使い慣れたシステムに戻すのではなく、自分が選んだ選手に適した形を模索して採用した新システムでやれることをやるという強い意志。

 そして、ポスタコグルーの強い意志に導かれたサッカルーズは、周囲の不安をよそに、世界のトップを相手にする大会で良いパフォーマンスを見せ、渦巻く不信感を払しょくすることに成功した。まさに、これぞブレない男、アンジ・ポスタコグルーの真骨頂だ。

 その大会の結果を数字で追うと、ドイツ、カメルーン、チリを相手に3戦2分1敗。4得点5失点で勝ち点2、グループではカメルーンを上回るも、上位2チームには及ばずにグループステージ敗退となった。内容的にはいずれの試合でも見せ場を作り、チリ戦では南米王者をあわやというところまで追い込んだ。サッカルーズは大会きってのグッド・ルーザーとしてロシアを去った。それと同時に、次の強敵・日本との試合に向けて「豪州を侮ることなかれ」の強烈なメッセージを送った。

 とはいえ、今大会の戦いぶりだけでサッカルーズの全てを判断するのは危険だ。サッカルーズは日本代表と同様かそれ以上に良くも悪くも相手に合わせる傾向が強い。コンフェデ杯では強敵相手にそれがすこぶる良い方向にあらわれたと考えた方がいい。3バックには相変わらずふとした瞬間にボールウォッチャーになる悪癖が残り、システム上の安定性に関しての不安は拭えていない。

 そのDF陣をけん引する25歳の新しきDFリーダーが、トレント・セインスベリー(江蘇蘇寧)だ。昨季インテルへのレンタル移籍を経験した後、心身ともにリーダーにふさわしく成熟した姿を見せるようになった。

 その両脇には、25歳になったばかりだが長くイングランドでプレーするベイリー・ライト(ブリストル・シティ)、日本のスピーディーなサッカーにもきっちり対応する23歳のミロシュ・デゲネク(横浜F・マリノス)が控える。この若い3バックは揃って長身で、スピードにさほどの不安がない。この3人のコンビネーションが確立されてくれば、サイズに劣る日本にとっては非常に厄介な壁となるに違いない。

●悩ましい両サイドの人選。ケーヒルの起用法は…

 不安なのはサイド攻撃への対応だ。新システム導入以降、左右のサイドハーフに入る選手たちがポジショニングに悩んでいる。コンフェデ杯初戦のドイツ戦では、サイドハーフが前に出過ぎたことでフォローしきれない裏のスペースをドイツに使われた。

 サイドハーフのポジションを担当する選手を見渡すと、左の本来のファーストチョイスであるブラッド・スミス(ボーンマス)やその代役としてコンフェデ杯でプレーしたアジス・ベヒッチ(ブルサスポル)は、DF登録でサイドバックが本職の選手。

 また右の現時点での一番手であるマシュー・レッキー(ヘルタ・ベルリン)はFW登録で、元々はウィングとしてプレーすることを好むなど、キャラクターもバラバラ。サイドハーフでの戦術的なコンセンサスを整えなければ、起用選手ごとのバラツキが出てしまいかねない。逆に言えば、そこが整備されなければ、来る決戦での日本の大きな狙い目にもなるということだ。

 攻撃面では、得点に至る経過はともかく、4得点すべてが異なる選手によるものだったことが非常に大きい。しかも、その得点者リストに英雄ティム・ケーヒル(メルボルン・シティ)の名前はない。この結果をして、サッカルーズは「ケーヒル依存症」の完全克服宣言を出してもいいだろう。ケーヒルが最後に代表でゴールを決めたのは、ほぼ1年前の昨年9月のW杯最終予選、アウェイでのUAE戦まで遡らなければならないのだから。

 今大会でのケーヒルは、初戦のドイツ戦(86分から)とカメルーン戦(70分から)は途中出場。代表通算100試合目となる節目にキャプテンとして先発したチリ戦でも、得点を奪えないまま57分に退いた。このチリ戦での先発起用は、準決勝進出がかかった試合とは言えど、多分にメモリアルな要素が見え隠れしていたことは否定できない。これらから判断すれば、ポスタコグルー監督の中でケーヒルの「スーパーサブ」起用は今後も揺るがないものと見える。

●最大の武器は多士済々の中盤。満を持して埼玉決戦へ

 ただ、間違えないでいただきたい。なにも「ケーヒル、怖るるに足らず」と言っているのではない。来る日本戦で、おそらくベンチスタートになるケーヒルは、スーパーサブでこそ、その脅威が増す。「ケーヒルはいつ出てくるのか…」という意識を相手に持たせることが、どれだけ心理的に有効か我々はすでにメルボルンでの日豪戦で体験済みだ。

 今のケーヒルを短時間での大仕事にフォーカスさせるーー。監督だけではなく、本人もそれを自覚している。日本の天敵は健在。ただ、その役割が違ってきただけだ。だから、決して侮ってはならない。

 前線では、昨年からのコンスタントな活躍でトミ・ユリッチ(ルツェルン)がエースFWとしての立ち位置を確立した。現代表で純粋なセンターFWタイプはユリッチと今年からドイツに活躍の場を移したジェイミー・マクラーレン(ダルムシュタット)だけ。その他のFW登録の選手は、常連のレッキー、ロビー・クルーズ(ボーフム)などいずれもウィンガータイプの選手で、現行のシステムではサイドハーフとしての活躍も求められるている。

 中盤の顔ぶれは豊富だ。その中でやはり存在感が抜けているのが、アーロン・ムーイ(ハッダーズフィールド・タウン)とトム・ロギッチ(セルティック)の両名。ケガで離脱していたキャプテンのミレ・イェデイナク(アストン・ヴィラ)が戻れば、コンフェデ杯でボランチとしてプレーしたムーイを攻撃的なポジションで起用できる。

 そのままムーイをボランチの一角で起用するならば、マッシモ・ルオンゴ(QPR)、ジェームス・トロイジ(メルボルン・ヴィクトリー)といったクリエイティブな駒を前線で起用できる。さらには若手の成長株で攻撃的なポジションならどこでもこなせるジャクソン・アーヴァイン(バートン・アルビオン)も控える、というように、中盤は多士済々。誰が出てきても「豪州、変わったな」と思わせるに十分な実力を持っている。特にロギッチの得点力には警戒したい。

 これまで、様々な名勝負が繰り広げられてきた日豪戦。今回の激戦は、試合後に「埼玉の〇〇」と語り継がれるようなものになるのか。もちろん、日本人としてはポジティブな言葉が〇〇に収まることを願う。そのためにも「敵を知る」ための情報を、ここ豪州から試合直前まで発信していくことで貢献できればと思う。

(取材・文:植松久隆)

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