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まるでZ型の「三遠南信道」はなぜ遠回りしてまで難所を通ることになったのか?

7/29(土) 8:50配信

週刊SPA!

 “酷道”152号線に沿って、三遠南信自動車道の一部開通区間・矢筈トンネルと喬木(たかぎ)インターの異空間ぶりを前回お伝えしたが、そこから南、国道152号線の道路整備状況は良好だ。酷道どころか気持ちのいい快走路となる。

⇒【写真】152号線のバイパス

 というのも、この区間は三遠南信道を新たに建設せず、「現道(国道152号線)を改良し活用することで早期ネットワーク完成を目指す」とされたからだ。幅員が狭隘だった区間には、バイパスが完成している。交通量を考えると、全線開通後もこれで十分。賢明な判断だ。この地域は”遠山郷”と呼ばれ、「下栗の里」などの観光資源も少なくない。「道の駅遠山郷」には日帰り温泉などの施設も充実しており、のんびりした風情に癒される。

 “酷道”は青崩峠が近づくと復活する。なにせ国道自体が途切れており、その区間は兵越(ひょうごえ)林道へ迂回しなくてはならない。

 兵越峠は、かつて武田信玄が最後の上洛を目指した際に越えた峠だが、そのあまりの険しさに、「なぜわざわざこんなところを?」と思わざるを得ない。信玄には本当に上洛の意思があったのか。単に浜松城など家康の本拠を脅かすことが目的だったのでは?など、高速道路とは関係ない歴史のほうに思いが飛んでしまう。

 この兵越峠のてっぺんでは、毎年10月の第4日曜日、遠州軍対信州軍による「峠の国盗り綱引き合戦」が行われている。勝ったほうが1m国境を広げられるというルールだ。

 さて、この青崩峠付近だが、三遠南信道の本来の計画では、兵越峠直下付近にトンネルを建設する予定だった。そのため、静岡県側には、23年前に高速道路規格で「草木トンネル」が完成し、長野県側の矢筈トンネル&喬木インター同様の「山奥の異空間」を現出させた。

 しかしこの付近は、日本列島を貫く大断層・中央構造線直上。兵越峠直下はあまりにも地盤が悪いことが判明し、2008年にルート変更が決定。青崩峠の西寄りが比較的地盤がいいことから、こちらに青崩トンネルを掘削することになり、草木トンネルは一般道(国道152号線)に格下げされた。

 現在は青崩トンネルの調査抗が掘削中で、我々が兵越峠に差し掛かった際は、ダンプカーが5台連なって降りてきたところだった。ダンプどころか乗用車すらすれ違い困難なこの道を、ダンプで土砂を運ばなくてはならない難工事。完成は何年後になるのか、少し気が遠くなる。

 草木トンネルを過ぎると、国道152号線は天竜川の支流に沿った険しい地形を縫って南下するが、三遠南信道は水窪(みさくぼ)から西寄りにルートを取り、国道151号線に沿って南西へ向かう。うち佐久間-東栄間は2年後に開通予定だ。

 なぜか1区間飛んで鳳来峡インターから先は5年前に三遠トンネルが完成し、すでに新東名・浜松いなさJCTに接続している。

 このように三遠南信道沿いの現況は、一部で高速道路規格のトンネルが開通済みかと思えば、乗用車のすれ違いも困難な林道を通らねばならない区間もあるという状態で、牛歩で建設が続いている。予算が付かなければ建設が進まない国道扱いの高速道路だけに、全線開通目標年度も未定。予算がダラダラと使われつつ、地域の利便性の向上もダラダラとしか進んでいないのであった。

 三遠南信道は、ルート設定自体があまりにも不合理だったのではないか? そもそも、なぜ青崩峠を通ることになったのか。

 なにせ三遠南信道は、飯田と浜松を結ぶ観点からすると、「Z」型を描いている。なぜ無駄に遠回りしているのか? 飯田山本インターから国道151号線に沿うルートにすれば、約20km近道になり、青崩峠のような難所を通る必要もなかったはずだ。

 このルートが正式に決まったのは昭和62年、ちょうど30年前である。当時、高速道路のルートは、建設省道路局が闇の中で決定し、詳しい理由は一切開示されなかった。まるで「天の声」だった。

 推測するに、国道152号線の不通区間・青崩トンネルを計画した際、「せっかくだからこれを高速道路に」ということになったのか。ルートをZ型に遠回りさせることで、東西方向の道路が極端に未整備な南信地方の地域振興を図る意味合いもあったのかもしれない。

 しかし、高速道路は本来、速達性が命のはず。こんなルートでは時間短縮効果が乏しく、そのぶん経済効果も落ちる。

 浜松からの帰路、国道151号線を通ったところ、鳳来峡インターから中央道飯田山本インターまでの所要時間は約2時間だった。将来、三遠南信道が全線開通しても、遠回りルートの上に制限速度が時速60~70kmと低いため、所要時間は30分程度しか短縮できないだろう。

 つまり、明らかに愚かなルート決定だったわけだが、一度決まったルートが変更されることはまずない。「地盤が悪すぎてトンネルが惚れない」といった技術的理由でもない限り……。

取材・文・写真/清水草一(道路交通ジャーナリスト)

【清水草一】

1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中。清水草一.com

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最終更新:7/29(土) 8:50
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