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小栗旬『銀魂』ヒットの要因は“脇役の濃さ”にあり? ご長寿漫画・アニメ特有の人物描写作法を読む

7/30(日) 6:02配信

リアルサウンド

 実写版映画『銀魂』の評判がすこぶるいい。原作と比べて非常に再現度の高いキャスティングに、パロディ満載でテンポのいいギャグシーンも多数とあって、古参ファンを筆頭に高評価を得ているのにも納得だ。だが同時に、本作を鑑賞中に、どこか“違和感”のようなものも覚えた。“違和感”といっても、決していやな感じのものではない。しかしながら、いわゆる“普通の実写映画”とは、大きく様相が異なっていたのだ。というのも、「脇役が主役に迫る存在感を発揮する」という、ご長寿漫画・アニメならではの特殊性が色濃く反映されていたためだ。

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 今回の『銀魂』は、アニメ作品である『劇場版 銀魂 新訳紅桜篇』がベースとなっている。ストーリーや細かいセリフを含めて原作にかなり忠実ではあったものの、実写化の大前提として、アニメ版と比べて圧倒的に“一見さん”の割合が多いことが想定されていた。そのため、『新訳紅桜篇』では既存のファン向けに省略されていた人物・舞台設定なども、作中である程度説明する必要があった。2時間という限られた尺の中でそうした再構成を行うには、大幅な取捨選択が必要不可欠だ。ゆえに、他のアニメ原作においては、「登場人物を削る」、「脇役の登場シーンを削る」、「原作に登場しないオリジナルキャラを投入する」といった措置もしばしば取られがちである。

 しかし、『銀魂』では、主要キャラたちもほぼ原作通りに描かれていた。登場人物の数はかなり多い方かと思うが、ストーリーが極めてシンプルなこともあって、全体を通してさほどゴチャゴチャした印象も受けなかった。ある程度オチの予想がつく勧善懲悪もので、味方サイドと敵サイドのキャラも一目瞭然。そして、歴史上の人物がモデルになっていることもあって、登場人物の相関性も一目でわかりやすい。そのため、一見へ向けた状況説明は最小限に抑えられていたように思う。そうしたややこしい説明がない反面、役者の身体性を伴う誇張した演技などによって、各キャラの特徴が言外で補填されている部分が大きかったのではないだろうか。

 現代小説の作法を説いた作家・フォスターによると、シナリオ制作の基本的な手法として、登場人物は以下の3種類に分類される。
円型人物(主人公)
半円型人物(脇役)
扁平型人物(端役、チョイ役、エキストラ)

 キャラクターをひとつの円として見た際に、円の全貌をどこまで描くかで、物語における重要度の高さが示されている。通常、完全な円型で描かれるのは、主人公ひとりのみだ。というのも、円型人物がふたり以上いるとストーリーがブレ、読者が混乱する恐れがあるためだ。脇役以下はあえて情報量を絞ることが、人物描写の基本となっている。この手法は、現在でも多くの作品に取り入れられているが、時間的制約が大きいこともあってか、2時間映画や1クールドラマでは特に顕著だと言えるだろう。

 しかし、長期連載の漫画やアニメの場合には、こうした人物描写の基本型が崩れるような例外も多々見受けられる。主人公の人格を掘り下げるだけではどうしても “ネタ切れ” や “マンネリ化” に陥るためだろうか、徐々に脇役の背景や素性にもフォーカスする範囲が大きくなり、脇役が限りなく円型人物に近づいていくのだ。

 すると、シナリオの基本的な技法からは逸脱する、「脇役が主役を食う」という事態が引き起こされることもある。事実、ジャンプ紙面でのキャラクター公式人気投票で、脇役が主人公を抑えて人気ナンバー1になってしまう作品も少なくない。『銀魂』の銀時人気は圧倒的ながらも、長期連載作品において、脇役が主役を捉えるほどの存在に成長することは、決して珍しくはないのだ。

 実写版『銀魂』では、短い時間内で各キャラの個性や、ファンがグッとくるポイントなどが見事に描かれていた。そのため、他の多くの映画作品と比べて脇役の存在感が圧倒的で、原作通りの「円型人物に極めて近い脇役」という印象が壊れずにすんだように思う。

 キャストのハマりっぷりなども含め、今回の実写版『銀魂』が成功した要因は山ほど存在するだろう。だが、ファンの “キャラ愛” を尊重した上で、登場シーンの少ない脇役の個性もバッチリ描き出したことが、高評価を得るファクターのひとつになっていたのは間違いないだろう。

まにょ

最終更新:7/30(日) 6:02
リアルサウンド