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「おじさんを劇場に呼び寄せたい」 ホリプロ堀社長が賭ける「超大作ミュージカル」の勝算

7/30(日) 12:00配信

日経トレンディネット

 芸能大手のホリプロが大きな“賭け”に出た。タレントのマネジメント事業を中心として、コンテンツ制作にも積極的に取り組んできた同社だが、2017年の夏、ミュージカル『ビリー・エリオット』を日本初演。前代未聞の準備期間をかけ、東京と大阪で3カ月間公演、17万人の動員を目指す。なぜ、手間ひまのかかる舞台に取り組むのか、またその先に見据えているものとは? 日本版上演の発案者として、並々ならぬ情熱で臨むホリプロの堀義貴社長にその「ミュージカル戦略」を聞いた。

【関連画像】『ビリー・エリオット』に出演する5人の少年たち、父役・吉田鋼太郎、ウィルキンソン先生役・柚希礼音。写真提供:ホリプロ

 日本のミュージカル市場と言えば1960年代以来、長らく東宝、劇団四季の“2強”に牽引されてきたが、ここ数年、ぐっと存在感を高めているのがホリプロだ。漫画を題材としたオリジナル・ミュージカル『デスノート』『わたしは真悟』、社会問題を扱った海外ミュージカル『メンフィス』『パレード』など、個性的な“攻め”のラインアップが話題を呼び、新たな客層を獲得している。

 その彼らがこの夏、米国の演劇賞であるトニー賞10部門受賞など、各国で絶賛されてきた大作ミュージカル『ビリー・エリオット』に挑む。1984年の英国の炭鉱の町を舞台に、少年ビリーがひたむきに夢に向かってゆくさまを描き、海外で1000万人を動員してきた作品だ。今回の日本初演では3カ月間で17万人動員を目指すというが、その発端は業界雑誌のほんの10行ほどの記事だったと、発案者でもある堀義貴社長は語る。

“数十年の蓄積”から上演権を獲得

堀義貴(以下、堀): ある日、何気なくWEB版のプレイビル(米国の演劇情報誌)を見ていたら、エルトン・ジョンが、映画『ビリー・エリオット(邦題“リトル・ダンサー”)』のミュージカル版を書く予定だという記事があり、即、これは買いだと思いました。もちろん原作の映画も素晴らしかったけれど、映画では既成のポップスが使われていて、そのまま舞台化するのであれば、「…で、T.REXを誰が歌うの?」で終わっていたと思うんですね。ところが舞台版では『ライオンキング』などですでにミュージカル実績のあったエルトン・ジョンが全曲新たに書き下ろすというので、これはすごいことになるぞ、と。さっそく、演劇部門のプロデューサーに話し、1カ月以内に制作会社に会いにいってもらいました。

 制作会社のワーキング・タイトルとは当時、何の接点もなかった。それでも舞台がロンドンで開幕すらしていない段階で、日本のプロモーターとして一番乗りを果たせたのは、それまでの数十年の蓄積があればこそだった、という。

堀: 僕らは97年の藤原竜也主演『身毒丸』のロンドン公演以来、蜷川幸雄さんの芝居で英国の演劇人たちと交流してきたし、それ以前にも88年に真田広之さんと米国人俳優が共演した『ビッグ・リバー』やロシアの作曲家と組んだ『12か月のニーナ~森は生きている』、そして『カルメン・ジョーンズ』などの招聘公演を通して、国際的な人脈を築いていました。それで『ビリー・エリオット』をやりたいとなったときにも、英国の演劇人に相談したらすぐ調べて、ワーキング・タイトルまで話をつないでくれたんです。ただのいちげんさんだったら、会ってもくれなかったでしょうね。彼らは、まだ作品も出来上がっていない段階で日本版なんて考えていなかったけれど、こちらの熱意は受け止めてくれました。

 2005年に『ビリー・エリオット』がロンドンで開幕、実際の舞台は「僕らがそれまでやってきた舞台は何だったんだと思うほどすごかった」。交渉は本格化したが、3年ほどでいったん頓挫。悔しいながらも「どうせ僕らにはできない作品、これで良かったんだ」と考えていたら、数年たって先方から連絡があり、交渉が復活した。製作費が桁違いのため1カ月では公演が成立しないが、幸いTBS赤坂ACTシアターを3カ月ほど使えることになり、実現が決定。2015年にビリー役の公募がスタートし、1346名の応募の中から、翌年4月のオーディションで10名の候補に絞り込まれた。

堀: 当初は、オーディションで適役がいなかったらこの公演はやめようと思っていました。かっこうだけやるのでは、僕がロンドンで観て感動した『ビリー・エリオット』ではなくなりますから。でもオーディションをやったら、英国から来たスタッフが“この子ならできる”と言う子が何人かいた。彼らのどこを見てわかったのか今でも不思議ですが、そのときにはタップダンスなんて誰もできなかったのに、1年少し経った今では(ビリー役の少年たちは)みな、実際にかたかたタップを踏んでいます。10年以上、各国で子供たちを見てきているから、体型や踊り方を見て、1年後の伸びしろが予想できたのでしょうね。

堀: “レッスン形式オーディション”ということで、それから子供たちにバレエやタップ、器械体操のレッスンを続けてもらい、さらに絞り込んでいって今年1月に4人、そして5月に1人追加して計5人のビリー役が決まりました。その間は彼ら英国人スタッフも何度もロンドンと東京を往復しましたし、身長が大きくなったり、声変わりをしたらダメといういろいろな制約の中で、子供だから思いがけないことも起こるし、正直、ここまで大変だとは(笑)。舞台だけ観るとなぜ本作が“超大作”と言われるのか分かりにくいかもしれないけれど、本稽古が始まる以前に、この舞台には相当の労力と経費が注ぎ込まれているんです。

 それでもこの作品に賭ける理由を、堀社長はこう語る。

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